テーマ・部門別

階層別

カスタマーハラスメント対策の新常識 ―「お客様は神様」から「お互い様」の時代へ―

ジャイロ総合コンサルティングのYouTube配信では、毎週金曜日のこの時間には、その時々のニュースを解説しながら、ジャイロ総合コンサルティングが培ってきた多岐にわたるノウハウが提供しています。今回のテーマは、現代社会で深刻化する「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。ジャイロ総合コンサルティングの鈴木コンサルタント大木会長による対談形式で、その本質と対策について深く掘り下げられました。東京都や北海道などを始め、各地でカスハラ対策の条例が施行されています。企業はどのようにこの問題と向き合うべきか。本記事では、対談の重要ポイントを詳細に整理してお届けします。


目次

1. アルバイトスタッフを襲うカスハラ被害の実態:7割の企業で対策不十分

対談の冒頭で鈴木コンサルタントが言及したのは、非常に衝撃的なネットニュースでした。その内容は、アルバイトスタッフが受けるカスタマーハラスメントの被害に対し、実に7割もの企業が十分な対策を講じていないというものです。特に小売店やサービス業において、顧客接点の最前線に立つのは、多くの場合アルバイトやパートのスタッフであり、彼らがカスハラの主要な標的となりやすい現状が浮き彫りになりました。この問題は、単なる労働環境の悪化にとどまらず、企業の人材確保と評判にも直結する重大な経営課題となっています。

大木会長の指摘

カスハラが起きるのは、まさに顧客との接点です。そして、その現場にいるのは、圧倒的にアルバイトやパートの方々。顧客接点にいるのは半数以上がアルバイトの方なのです。彼らに対する具体的な対策や考え方がしっかりしていないと、そもそもアルバイトが続かないし、新たな人材も入ってきません。さらに深刻なのは、辞めたアルバイトがSNSを通じてカスハラの被害を訴え、企業名や店名を出して不満を拡散するリスクがあることです。これは、お客様からの信頼だけでなく、将来の採用活動にも悪影響を及ぼしかねません。こうした事態を避けるためにも、アルバイトに特化したカスハラ対策のマニュアル化は急務と言えるでしょう。」

鈴木コンサルタントの補足

「主力の働き手がアルバイト・パートである業界において、彼らを守る仕組みがなければ、現在も深刻な人手不足はさらに深刻化してしまいます。早急な対策が求められています。」

マイナビ、「アルバイト従業員へのカスタマーハラスメント実態調査」の結果を発表
https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP685625_S5A120C2000000/

2. 「お客様は神様」はもう古い? カスハラが問題化する歴史的背景

https://www.nippon.com/ja/in-depth/d01024/
なぜ日本ではお客さまがエラくなったのか:カスハラの現状と法整備への課題

なぜ今、これほどまでにカスタマーハラスメントが社会問題としてクローズアップされるようになったのでしょうか。大木会長は、その根源を日本の戦後経済史における「お店」と「お客様」の関係性の変遷に求め、深く考察しました。この歴史的変化を理解することが、カスハラ問題の本質を見極める鍵となります。

(1)戦後の「物不足・人余り」時代:店側優位の構図

「戦後の日本は、戦争に敗れ、衣食住すべてを失った大変な時代でした。そこに外地からの復員者も加わり、『人余り・物不足』という状況が生まれました。この時代は、物を持っている『お店側が圧倒的に有利』だったのです。子供たちがお店で何かを頼む時でさえ、東京では『くださいな』とへりくだり、東北地方では『ネベサ』(ないでしょう、でも売ってください)、関東周辺では『おくんなさい』といったように、『売ってもらう』という頼み事のような言葉が日常的に使われていました。買う側が劣勢であり、売る側が優勢という関係性が常識だったのです。」

(2)高度成長期の「物余り・人不足」時代:「お客様は神様」の定着

しかし、高度経済成長期に入ると状況は一変します。大量生産が可能になり、経験曲線効果により非常に早いスピードで大量に物が作れる時代が到来。**「物余り」の時代が生まれ、一方で労働力は不足し「人不足」という逆転現象が起きました。この変化の中で生まれたのが、「お客様は神様です」という言葉です。本来、歌手の南春夫さんがファンへの感謝の気持ちを表した言葉であるにもかかわらず、ビジネスの世界では「お客様が優位」**という、過剰なサービスを提供するべきだという認識が定着してしまいました。

(3)現代の歪み:50歳以上の世代に顕著なカスハラ行動

「『お客様は神様』という認識が現代にまで影響を及ぼした結果、一部の顧客が**『何を言っても許される』と誤解しているのが現状です。特に、50歳以上の世代、特に団塊の世代が70代になった現在、過去の『物不足時代に物がなくて辛い思いをした分、今こそ自分の主張が通るはずだ』という、ある種の『仕返し(石上石)』とも言える行動が見られると指摘されています。彼らは自身を『経験を教えてやっている』と捉え、本人には悪意がなく、むしろ良かれと思って店員に高圧的な態度を取ってしまうケースも少なくありません。実際、カスハラの多くは60歳以上の男性**によるもので、若い世代の子供が父親のカスハラ行動を見て『お父さん、やめて。恥ずかしい』と言う場面もあるほどです。」

大木会長の結論

「もはや、お客様は神様ではありません。あなたと同じ、一人の人間である。社会的に生きるということは、互いの良権を良いようにすり合わせることに他なりません。お店がなければ私たちの生活は成り立たないし、お客様なしに企業の経営は成り立ちません。これからは**『お互い様』**という認識を持つことが、カスハラ問題解決の第一歩であり、**新しい時代の『当たり前』**なのです。」


3. カスハラ対策の要:「マニュアル化」と「心(スピリット)」

鈴木コンサルタントは、カスハラへの具体的な対応策としてマニュアル化の重要性を強調しました。ただし、マニュアルは単なる形式的な手順書ではなく、**現場で実際に機能する「生きたツール」**でなければならないと指摘します。

マニュアルの3つの役割

(1)一貫性

「顧客対応において、AさんとBさんで対応が異なると、顧客は不信感を抱き、混乱を招きます。マニュアルがあれば、誰が対応しても一定の品質と一貫性を保つことができ、顧客からの信頼を得やすくなります。俗人的な仕事をなくすことが、マニュアルの第一の役割です。」

(2)共有化

「一貫性だけでなく、企業全体、あるいは複数の店舗を持つ組織全体での共有が不可欠です。『Aさんは知っているがBさんは知らない』という情報格差をなくし、組織全体でカスハラ問題に向き合う体制を築けます。共有化こそが公平感を生み出し、差別されたと感じさせない対応につながります。なぜなら、クレームの多くは『差別された』という感覚から生まれるからです。」

(3)即戦力化

「特にアルバイトスタッフは、すぐに現場で活躍することが期待される即戦力です。研修に十分な時間を割けない場合でも、充実したマニュアルがあれば、迅速に適切な現場対応が可能となり、即戦力としてのパフォーマンスを発揮できます。」

時代に合わせた接客用語の見直し

大木会長の補足

「ただし、マニュアルを作る際には、そこに**『心(スピリット)』を添えることが非常に重要です。40年間ほとんど変わっていない接客用語を、時代に合わせて見直すべきです。例えば、空港の売店で飛行機に乗り遅れまいと焦っているお客様に『少々お待ちください』と言うのは、時に『待ってろ、お前』という冷たい印象を与えかねません**。実際、私が経験したケースでは、3分待たされただけで非常に不愉快な思いをしました。しかし、『ただいまいたします』という言葉を使えば、お客様は『ありがとう』と感謝の言葉を返してくれる可能性が高まります。3分後に商品を持ってきても、『大変お待たせしました』ではなく『いやいや、早く持ってきてくれてありがとう』という反応が得られるのです。接客用語一つとっても、時代と状況に合わせて見直し、お客様に寄り添う気持ちを込めるべきなのです。お客様から『ありがとう』と言われる接客こそが、カスハラ対策の真髄と言えるでしょう。」


4. 現場スタッフを孤立させる「セカンドハラスメント」の深刻さ

対談では、カスハラ被害者が上司や組織から適切なサポートを受けられない**「セカンドハラスメント」**の問題も深く掘り下げられました。これこそが、現場スタッフが辞めていく最大の原因だと両者は指摘します。

現場で起きる孤立の実態

大木会長の実体験

「私自身が飲食店でクレームを伝えた際、女性スタッフが上司を呼びに行ったのですが、厨房で上司と5分ほど話している様子が見えました。しかし、上司は現れず、女性スタッフが一人で戻ってきて**『いません』と言うだけでした。私の服は蕎麦のつゆでびしょびしょになっており、クレームとして正当な内容だったはずです。しかし、この時一番悲しいのは、クレームを受けているその女性スタッフ**です。誰も自分の味方がいないと感じ、完全に孤立してしまう。これが日本の多くの職場で起きている現実なのです。」

感情的なカスハラ客への対応

鈴木コンサルタントの分析

「カスハラをする人は、多くの場合、感情的になっており、冷静さを失っています。そして、『弱い者』をターゲットにする傾向があります。強い相手には手を出さない。いじめられるのが怖いからです。だからこそ、上司がすぐに現場に駆けつけ、『いかがいたしましたか?お客様』と毅然とした態度で介入すれば、お客様は冷静さを取り戻す可能性があります。これは単なる『チーム対応』ではなく、『バンド(絆)』のような、互いに助け合う強い連携が求められるのです。一人がやられたら一人が手伝い、それでもダメならもう一人と、絆のような対応こそが、現場スタッフに安心感を与えます。」

上司の教育不足が招く悪循環

「残念ながら、多くの上司自身がカスハラ対応の適切な教育を受けていないのが現状です。『とりあえずお客様の怒りを沈めてこい』と指示するだけで、具体的な対応方法を教えられない。中には『3,000円までなら飲食代を出してもいいから、とにかく納めてこい』という無責任な指示もあります。その結果、現場スタッフはファミリーレストランで2時間もお客様のお説教を聞かされ、ただお金で解決するという悪質な『利得型カスハラ』を助長する対応をしてしまうケースもあります。こうして現場スタッフは孤立感を深め、追い詰められて辞めていくという悪循環が生まれています。上司が過去の自分の経験に照らして『昔はこうだった』と部下を突き放すのではなく、今の時代に即したカスハラ対応を学び、率先して部下を守る姿勢が不可欠です。」


5. 民間企業と行政窓口:異なるカスハラ対策の視点

鈴木コンサルタントは、カスハラ対策を考える上で、民間企業と行政窓口の根本的な違いを指摘しました。この違いを理解することが、それぞれに適した対策を講じる上で重要です。

行政窓口の特殊性

「行政サービスは税金で運営されているため、住民は**『税金を払っているのだから、やってもらって当たり前』という意識を持ちがちです。そのため、いやをなしに感情をぶつけやすい環境にあり、末端の窓口スタッフ、特に臨時職員や非正規雇用の方がカスハラの被害を受けやすい傾向**にあります。現在、行政窓口は昔に比べて非常にサービスが向上しており、税務署なども丁寧に教えてくれます。しかし、その素晴らしいサービスを提供している末端の方々が、非正規雇用という立場で悩まされているのが実情です。」

民間と行政の違い

「行政機関では、課長クラスの正規職員がすぐに現場に駆けつけ、末端スタッフを守る仕組みが不可欠です。また、民間企業では上得意客への優遇サービスが許容される場合もあります。たくさん買ってくれる人を優位に扱うことは、他のお客様も許容するでしょう。しかし、行政では**『公平性』**が最優先されるため、民間とは異なる対応が求められます。この違いをマニュアルでも明確に分けて考える必要があります。」


6. 経営者層こそマニュアルを共有し、現場を理解すべき

大木会長は、カスハラ対策において、経営者層が現場を理解し、マニュアルを共有することの絶対的な重要性を強く訴えました。この指摘は、日本の組織における根深い問題を浮き彫りにしています。

経営者層の不在という問題

「カスハラ対策のセミナーに足を運ぶのは、常に現場の担当者ばかりで、社長や役員といった経営層はほとんど参加しません。しかし、**『事故は現場で起きる』**という真理を忘れてはなりません。現場を知らない指揮官が組織を率いれば、必ず機能不全に陥ります。」

ノモンハン事件に学ぶ教訓

「これは、かつて日本軍がソビエト軍とのノモンハン戦で大敗を喫した歴史的事実と共通しています。戦後、ソビエトのジューコフ将軍がスターリンに報告した際、『日本の末端の兵隊は頑強で非常に能力がある。下級将校もファナティック(狂信的)なほど真剣に戦う。しかし、将軍はほとんどダメだ』と評価しました。現場の兵士は優秀で能力が高かったにもかかわらず、現場を理解していない将軍が指揮を執った結果、多大な犠牲者を出しました。日本の軍隊制度では、幼年学校から陸軍士官学校、陸軍大学校とエリート教育を受けた者が将校になりますが、実戦経験に乏しく、現場が全く分かっていなかったのです。一方、アメリカ軍は叩き上げの指揮官も多く、現場を理解した実戦能力のある指揮官が世界最強の軍隊を作りました。」

マニュアルの全社共有が不可欠

「カスハラ対策のマニュアルは、社長を含め、組織の全員が内容を共有し、理解しているべきです。社長がそのマニュアルに一筆入れるだけでも、現場のスタッフの意識は大きく変わり、『自分たちは守られている』という安心感につながります。それがなければ、せっかく作ったマニュアルも、単なる**『お題目』で終わってしまい**、全く意味がありません。実効性のあるマニュアル活用には、現場のマネージャーがマニュアルを自分のものとして理解し、スタッフに教えていくことが最も重要です。」


7. まとめ:新しい時代の「当たり前」を共に創造する

対談の最後に、鈴木コンサルタントと大木会長は、これからの社会における「お客様」と「お店」の理想的な関係性について、次のようにまとめました。

新しい時代の関係性

「もはや『お客様は神様』でもなく、お店が一方的に優位でもない。『お互い様』という対等な関係性を築くことこそが、これからのビジネスの基盤であり、**新しい時代の『当たり前』**です。お客様もお店も、社会を構成する一員として互いを尊重し合うことが、健全な関係性を育む上で不可欠なのです。世の中や社会というのは、互いの良権を上手にすり合わせることに他なりません。」

実効性のある対策の鍵

「マニュアルをただ作成するだけでは不十分です。それを現場のマネージャーが自分のものとして深く理解し、スタッフ一人ひとりに丁寧に教え込むこと。そして、経営者層も積極的にマニュアルを共有し、現場の状況を把握することが重要です。さらに、組織全体で**『バンド(絆)』のような助け合いの文化**を育むこと。カスハラ対策とは、『お客様からありがとうと言われる接客』を実現することであり、次も利用してもらうことがビジネスの本質です。これら全てが、カスハラ対策を実効性のあるものにし、スタッフが安心して働ける環境を築くための鍵となるでしょう。」

ジャイロの明日から使える!実践型カスハラ対策・ハラスメント研修

大木ヒロシ著(お客とお店のためのシン・カスハラ対策 カスハラ対策で伸びる店・カスハラで潰れる店)、鈴木タカノリ著(飲食店・小売店・コールセンター・行政窓口必携! クレーム対応・カスハラ対策マニュアル作成のコツ)を出版している人気講師2名が実践的なマニュアル作成から顧客志向の対応術まで学べるカスハラ研修。

飲食店、小売店、コールセンター、行政窓口など幅広い業種に対応し、小規模事業者でも導入しやすい具体的手法を習得できる研修です。クレームを対話の機会に変え、お客様との良好な関係を築きながら、スタッフの尊厳と安全を守る新しいハラスメント・カスハラ対策を学びませんか?

その他セミナー&研修.comでのカスタマーハラスメント研修

中小企業専用AIツール!中小企業支援の知見を持つジャイロだから設計できたAI

誰でも、簡単即戦力!
経営者のお悩みを即解決する中小企業専用AIツール
『Ai助(あいすけ)』 !

10/24(金)〜11/30(日)の期間中、Ai助をご新規でお申し込みいただいた方限定で、初月利用料が無料となるキャンペーンを実施中!

ジャイロ総合コンサルティングのYouTube公式チャンネル

お知らせ

▶ もっと見る

研修・セミナー事例

▶ もっと見る

新着研修

▶ もっと見る