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賃上げ時代を生き抜く中小企業の戦略―コアスキルとオンボーディングが鍵を握る

乾いたタオル」状態から脱却するために、今こそ取り組むべき人材戦略とは

中小企業を取り巻く経営環境が厳しさを増しています。2025年上半期の企業倒産件数は5,100件と12年ぶりの高水準を記録し、特に人手不足を原因とする倒産が202件(2013年度以降最多)に達しました。

https://www.sankei.com/article/20251008-TCSTWDINOBKDBPWTEYDYU6R3SA/ 
全国倒産、12年ぶり高水準 上半期、人手不足や物価高 東京商工リサーチ調べ

「価格転嫁を進めて賃上げを」と言われても、現実には「乾いたタオル」状態で財務諸表を見直してもお金は出てこない――多くの経営者がこのジレンマに直面しています。中小企業においては、発注側も厳しい経営状況にあり、価格交渉は容易ではありません。また、消費者向けの商品でも、価格を上げれば販売量が減少するという板挟みの状況が生じています。賃上げの原資を財務諸表から探そうとしても、すでに役員報酬もギリギリまで削減済みで、これ以上絞り出すものがない――これが多くの中小企業の実情なのです。

しかし、補助金を一時的に活用しながらコアスキルの再構築オンボーディングの仕組み化に取り組むことで、持続的な賃上げ体制と人材定着を実現する道が開けます。本記事では、経営コンサルタントの視点から、中小企業が今すぐ実践できる具体策を解説します。


1. 中小企業を襲う「人手不足倒産」の実態と背景

https://www.sankei.com/article/20251023-V2X4AG4GZBPBPKPKEJF7I5IJA4/ 
連合春闘方針の賃上げ率目標、中小企業は「上乗せ」継続 進まぬ格差是正、価格転嫁急務に

倒産件数4年連続増加の背景

東京商工リサーチの調査によると、倒産の主な要因は以下の3つです。これらは単独ではなく、複合的に作用しているケースが多く見られます。

人件費高騰による経営圧迫72件
人件費の上昇が経営を圧迫し、事業継続が困難になるケースが増えています。最低賃金の引き上げや、人材確保競争の激化により、人件費負担は年々重くなる一方です。特に労働集約型の産業では、この影響が顕著に表れています。

求人難による人材確保の失敗66件
募集をかけても人が集まらず、事業運営に支障をきたすケースです。求人広告費をかけても応募がゼロ、あるいは数名程度という状況が続き、必要な人員を確保できないまま事業縮小を余儀なくされる企業が増えています。

従業員の突然退職64件
既存社員が辞めてしまい、業務が回らなくなるケースです。特に重要なポジションの社員が退職すると、代替要員の確保が間に合わず、連鎖的に他の社員も辞めていくという負のスパイラルに陥ることがあります。

「価格転嫁」の現実的困難さ

連合(日本労働組合総連合会)は「中小企業の賃上げにはコスト増加分の価格転嫁が必要」と提言していますが、現実には発注側も厳しい状況にあり、価格交渉は容易ではありません。消費者向け商品でも、価格を上げれば販売量が減少するというジレンマがあります。例えば、お米などの生活必需品でも、価格が上がると消費量が減る現象が観察されており、単純な価格転嫁では売上減少を招くリスクが高いのです。

財務諸表を見直しても「原資」が見つからない理由

賃上げの原資を財務諸表から探そうとしても、すでに「乾いたタオル」状態の企業が大半です。役員報酬もギリギリまで削減済みで、これ以上絞り出すものがない――これが多くの中小企業の実情です。損益計算書やバランスシートをいくら見直しても、余裕のある項目は見つかりません。中小企業の倒産が増加しているのは、この「乾いたタオル」状態が限界に達していることを示しています。


2. 持続的な賃上げの唯一の解決策は「一人当たり生産性の向上

https://shoryokuka.smrj.go.jp/
中小企業省力化投資補助金は

補助金活用は「つなぎ」と考える

現在、新たな内閣の財政的な積極策もあり、以下の補助金・助成金が活用可能です。景気を良くしていこうという期待感が高まる中、これらの支援策を賢く利用することが重要です。

業務改善助成金
補助上限600万円生産性向上のための設備投資を支援します。例えば、業務効率化のためのITシステム導入や、省力化機器の購入などが対象となります。

中小企業省力化投資補助金
一般型で最大8,000万円補助率3分の2人手不足を機械・設備でカバーする投資を支援します。カタログ注文型なら1,000万円まで、一般型では最大8,000万円という大規模な投資にも対応しています。

キャリアアップ助成金
社員の研修・スキルアップを支援します。社員教育にかかる費用の一部を補助してもらえるため、コアスキル研修の実施にも活用できます。

働き方改革・経営改善の相談費用
専門家への相談費用も補助対象になるケースがあります。経営コンサルタントや社会保険労務士などへの相談費用も、補助金の対象となる場合があります。

これらの補助金は一時的な資金繰りを助けますが、根本的な解決策ではありません。重要なのは、社員一人当たりがしっかり稼げる体制を作ることです。単に財務諸表から賃上げの余裕を探すのではなく、生産性向上による持続的な賃上げを目指す必要があります。補助金はあくまで「つなぎ」として活用し、その間に組織の根本的な体質改善を進めることが肝心です。

「社員が入る→続く→育つ」のサイクルを回す

健全で持続的な賃上げ体制を実現するには、以下のサイクルが必須です。このサイクルが回り始めると、企業の成長は加速度的に進みます。

社員が入る
魅力的な職場として認知され、応募が増える。口コミや評判が広がり、優秀な人材が自然と集まるようになります。

続く
3ヶ月以内の早期離職を防ぎ、定着率を高める。オンボーディングの仕組み化により、新人が安心して働ける環境を整備します。

育つ
スキルアップし、生産性が向上することで、会社全体の収益力が高まる。コアスキル研修を通じて、社員一人ひとりの能力が向上し、企業の競争力が強化されます。

このサイクルを回すための核心が、コアスキルの明確化オンボーディングの仕組み化です。この2つの柱を確立することで、持続的な成長の基盤が整います。


3. エマージングスキルではなく「コアスキル」に注力せよ

エマージングスキルとコアスキルの違い

スキル研修には2つのアプローチがあります。両者の違いを理解し、適切に使い分けることが重要です。

エマージングスキル(新しい知識・技術)
AI活用、最新ツールの使い方など、時代に応じて変化するスキルです。流行や技術革新に伴い、常にアップデートが必要となります。

コアスキル(会社の核となるスキル)
その会社独自の仕事の進め方、価値観、技術など、長年培われてきた、会社を支える根幹となるスキルです。これは企業の歴史そのものであり、簡単には模倣できない競争優位の源泉となります。

「新しいもの」に飛びつく危険性

経営が苦しくなると、「AIを導入すれば何とかなる」「若い人の方が新しい知識に強い」と考え、エマージングスキルに偏りがちです。しかし、これには以下のリスクがあります。

社内秩序の崩壊
若手が上司の「先生役」になるリバースメンタリング(逆メンタリング)を導入すると、確かに世代間のコミュニケーションが円滑になる可能性もありますが、知っている方が優位に立ち、上下関係が崩れ、組織の安定性が失われることがあります。実際、ある企業では、若手社員を講師とした研修後、ベテラン社員のモチベーションが低下し、組織の雰囲気が悪化したケースも報告されています。

独自性の喪失
会社独自の強み(コアスキル)が伝承されず、誰でも代替可能な組織になってしまいます。結果として、競合他社との差別化ができなくなり、価格競争に巻き込まれる恐れがあります。

依存リスク
新しい知識を持つ若手社員が辞めると、そのスキルに依存していた組織が機能不全に陥ります。特定の人物に依存する体制は、組織の脆弱性を高める要因となります。

ガートナー調査が示すコアスキルの効果

世界的なコンサルティング会社ガートナー(米カリフォルニア州)が従業員3,375人を対象に実施した調査では、以下の結果が出ています。

現在の不可欠なコアスキルの研修は、今すぐ応用することの難しいエマージングスキルの教育に比べ、従業員のパフォーマンスを5倍以上向上させる

この調査結果は、むやみに新しいスキルに飛びつくのではなく、自社の「核」となるコアスキルを徹底的に磨き上げることの重要性を示しています。エマージングスキルは必要な時に必要な人(全体の2〜3割程度)にだけ教えれば十分です。残りの7〜8割の社員には、日常業務で確実に成果を出すためのコアスキルを徹底的に教えることが、組織全体の生産性向上の近道なのです。

ほとんどの社員は通常の業務を遂行しており、その業務をより効率的に、より高品質に行うためのスキルこそが求められています。コアスキルの整理と共有は、まさにこのニーズに応えるものなのです。


4. 中途採用者が3ヶ月で辞める理由と「100万円の損失

中小企業の深刻な離職問題

中小企業では新卒一括採用が難しく、大半が中途採用です。しかし、その定着率は極めて低く、平均3ヶ月で離職してしまうケースが頻発しています。これは企業にとって、財務的にも組織的にも大きな痛手となります。

3ヶ月間の損失を計算すると

中途採用者が3ヶ月で辞めた場合、以下のコストが発生します。

人件費
給与・社会保険料など約90〜100万円。これには求人広告費、面接にかかった時間コスト、入社手続きの事務コストなども含まれます。

生産性
ほぼゼロ(仕事を覚える前に辞めるため)。むしろ、教える側の時間を奪うため、マイナスの生産性とも言えます。

機会損失
その人がいれば得られたはずの利益。3ヶ月間、その人が担当するはずだった業務が遅れたり、他の社員が残業でカバーしたりすることで、さらなるコストが発生します。

つまり、100万円をドブに捨てているのと同じ状況です。これが年に数回繰り返されれば、数百万円の損失となり、企業の財務は疲弊し、倒産も避けられません

社員が辞める本当の理由

「給料が安いから辞める」と思われがちですが、実際には以下の理由が大半を占めます。給与は入社前から分かっていることであり、真の退職理由は別のところにあるのです。

仕事が分からない・できない
誰も教えてくれないため、何をすれば良いか分からない状態が続きます。毎日出社しても、何をすれば良いのか分からず、ただ時間が過ぎていくという苦痛を味わうことになります。

上司から疎まれる・怒られる
できないことで叱責され、嫌な目で見られることでストレスが蓄積します。「なぜこんなこともできないのか」と言われても、そもそも教えられていないのですから、できるはずがありません。

コミュニケーション不全
質問しづらい雰囲気、孤立感が生まれ、会社に馴染めません。昼食も一人で食べ、誰とも話さない日が続けば、会社に来ること自体が苦痛になります。

「教えない→やらせる→失敗させる→怒る」の悪循環

多くの企業がOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)と称して、「先輩の背中を見て学べ」と言いますが、現代の若手社員、特に「一人っ子世代」にはこのやり方は通用しません。彼らの多くは「教えてもらうのが当たり前」という環境で育っており、かつての兄弟姉妹が多い世代のように、失敗や真似を通じて自ら学ぶ機会が少ないのです。

例えば、ある缶詰工場の社長が新人社員を案内した際、床が滑りやすい環境にもかかわらず注意を怠ったため、新人が転倒して手を切る事故がありました。その新人は社長に対し、「お母さんなら包帯と絆創膏をくれるのに、なぜ社長はくれないのか」といった態度を見せたと言います。これは極端な例かもしれませんが、「教えてもらうのが当たり前」という現代の若手社員の傾向を示しており、教えられないまま放置すれば、離職は必然となるのです。

昔は兄弟が3人、5人といる家庭も珍しくなく、兄の真似をしながら自然と学ぶ習慣が身についていました。しかし、今の一人っ子世代には、その「真似して学ぶ」というOJT的な素養が育っていないのです。彼らには明示的に教える必要があります。


5. 山本五十六の名言に学ぶ「人を育てる極意

海軍式オンボーディングの真髄

連合艦隊司令長官・山本五十六の有名な言葉があります。これは、今から70年以上も前に日本海軍が実践していた新人育成、すなわちオンボーディング(新人受け入れ体制)の本質を表しています。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば、人は動かじ。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」

この言葉は、人を動かし、育て、実らせるための段階的なアプローチを示しています。70年以上前の言葉ですが、現代の人材育成にも完全に適用できる普遍的な真理です。

4つのステップと現代への応用

やってみせる
上司が実際に手本を見せることで、具体的な仕事のイメージを伝える。言葉だけでは伝わらない細かな動作や、仕事の流れを視覚的に理解させることができます。

言って聞かせる
理屈や背景、会社独自の仕事の進め方(暗黙知)を言語化して説明する。「なぜこうするのか」という理由を説明することで、新人は納得して仕事に取り組めます。

させてみる
実際にやらせてみて、経験を通じて学ばせる。見ているだけでは分からないことも、実際にやってみることで理解が深まります。

褒める
できたことを承認し、自信を持たせることで、次の行動を促す。「できた」という成功体験が、次の挑戦への意欲を生み出します。

この逆、つまり「教えない→やらせる→失敗させる→怒る」を繰り返せば、誰でも会社を辞めていきます。これは決して特別なことではなく、人が組織で成長するための普遍的な原則なのです。逆のことをすれば、当然人は辞めていきます。それが今、多くの中小企業で起きている現実なのです。


6. オンボーディングの仕組み化で「3日で戦力化」を実現する

オンボーディングとは

オンボーディング(onboarding)とは、新人が「同じボートに乗る仲間」として組織に溶け込み、早期に戦力化するための受け入れプロセスです。これは単なる入社手続きではなく、新人が安心して業務に取り組めるよう、会社全体でサポートする体制を指します。「on board」、つまり「船に乗る」という意味から来ており、新人を仲間として迎え入れる姿勢を表しています。

3日で戦力化すれば、100万円の損失を防げる

3ヶ月で辞められると100万円の損失ですが、3日で基本業務ができる状態にすれば、仮に3ヶ月で辞めても一定の成果は残ります。何より、早期に「仕事が分かる」状態になれば、新人の心理的負担は大きく軽減され、離職率は大幅に低下します3日で戦力化するというのは、決して無理な目標ではなく、適切な教育体制があれば十分に実現可能です。

オンボーディングの具体的な仕組み

直属上司(班長・主任クラス)が教育担当
社長や人事部長ではなく、現場で最も近い上司が担当します。現場の危険や細かなノウハウは、現場のリーダーこそが知っているため、彼らが新人に直接教えるのが最も効果的です。社長が案内すると、現場の細かな危険(床が滑る、など)を見落としがちです。

バディ制度(先輩社員のサポート)
直属上司に加え、少し年上の先輩社員を「バディ」として配置し、日常的な相談相手にします。これにより、新人は心理的な安全性の中で質問しやすくなります。上司には聞きづらいことも、年齢の近い先輩になら気軽に聞ける環境を作ります。

週の3〜5日をオンボーディングに割く
最初の1週間は、業務ではなく「教えること」に時間を使います。短期的には生産性が下がりますが、長期的には早期離職による大幅なコスト削減につながります。この1週間の投資が、その後の3ヶ月、1年、さらには数年間の定着に直結します。

コアスキルマニュアルの作成
口頭だけでなく、「うちの会社はこうやる」というマニュアルを用意します。これがないと、教える内容がバラバラになり、新人が混乱する原因となります。マニュアルを通じて、会社独自のノウハウや価値観を体系的に伝えることができます。マニュアルは完璧である必要はなく、初版として主要なコアスキルをまとめるだけでも十分効果があります。


7. コアスキルを明文化する―「暗黙知」を「形式知」へ

コアスキルとは何か

コアスキルとは、以下の3つの要素で構成されます。これらはその会社の歴史であり、10年、20年、あるいはそれ以上にわたって培われてきた、まさに企業の生命線とも言えるべきものです。しかし、多くの企業ではこれが「形になっていない」のが現状です。

会社独自の仕事の進め方
「こういう時はこうする」といった暗黙のルールや手順を明文化します。例えば、クレーム対応の手順、顧客への報告のタイミング、社内連絡の方法など、長年の経験で培われたノウハウを言語化します。

価値観・信条
「顧客第一」「品質重視」など、会社の哲学や行動規範を言語化します。これは企業文化の基盤であり、社員全員が共有すべき価値観です。

技術・ノウハウ
熟練社員が持つ「コツ」や長年の経験で培われた技術を言葉や図で表現します。例えば、製造工程での微妙な調整、営業での話の進め方など、言葉にしづらいけれども確実に存在するスキルを形式知化します。

「暗黙知」のままでは伝わらない

自転車の乗り方を言葉だけで教えても、誰も乗れるようになりません。実際に押さえてあげて、バランス感覚を体得させる必要があります。これが「暗黙知」の特性です。しかし、企業のコアスキルは**可能な限り言語化(形式知化)**しなければ、属人化し、特定の社員が退職すれば伝承が途絶えてしまいます。

自転車の例と同様、企業のスキルも完全に言語化できない部分はありますが、少なくとも「どう教えるか」「どう体験させるか」という教育方法は明文化できます。これがコアスキルマニュアルの役割です。

歴史に学ぶ「歩兵操典」の教訓

明治時代の日本陸軍には「歩兵操典」というマニュアルがありました。これは、一般人を兵士にするため、銃の持ち方、行進の仕方、射撃方法などを細かく明文化したものです。兵士はこれによって、短期間で基本的な軍事スキルを習得できました。一般の人々を数ヶ月で戦力化するという目標を、このマニュアルは見事に達成したのです。

ノモンハン事件(1939年)で日本軍と戦ったソ連軍の司令官ジューコフは、スターリンに「なぜ日本軍に勝てたのか」と問われ、こう答えました。

「日本軍は下士官・兵士の現場力が圧倒的に強い。技術も高く、工夫もしてくる。だが、上層部の判断が甘かった」

この言葉は、まさにコアスキルがしっかりしていれば、現場は極めて強いことを示しています。歩兵操典のような明確なマニュアルによって、兵士たちは高い現場力を発揮できたのです。逆に、上層部が場当たり的にエマージングスキルに飛びつけば、組織の根幹が揺らぎ、崩壊を招く危険性があるのです。

中小企業においても、この教訓は活かせます。現場のスキルを明文化し、共有することで、組織全体の底力を高めることができるのです。


8. コアスキルとKPIを連動させる

コアスキルを「業績」に結びつける

コアスキルを明文化したら、それをKPI(重要業績評価指標)と連動させます。Key Performance Indicatorの略で、重要な業績を測る指標のことです。

このスキルをしっかりやれば、売上が◯◯%向上する
この手順を守れば、ミスが△△%減る
顧客対応のこのスキルを習得すれば、リピート率が◯◯ポイント上昇する

このように、スキル習得と業績向上の因果関係を可視化することで、社員は自身の努力が会社の成果に直結することを実感できます。これにより、個人のモチベーションが高まり、主体的にスキル向上に取り組むようになります。

単に「頑張れ」と言うだけでは人は動きません。「このスキルを習得すれば、こういう成果が出る」という明確な道筋を示すことが重要です。

褒められる構造を作る

KPIを達成したら、必ず褒めます。山本五十六の言葉通り、「褒めてやらねば、人は動かじ」です。具体的な成果と行動を称賛することで、社員は認められていると感じ、さらに意欲的に業務に取り組むようになります。

褒めるタイミングも重要です。月次報告で一度だけ褒めるのではなく、日々の業務の中で、小さな成功を見つけて褒めることが効果的です。「今日の◯◯は良かったね」という一言が、社員のモチベーションを大きく高めます。


9. 高齢者雇用とAI・ロボット活用で人手不足を補う

人生100年時代の現実

2025年現在、60歳の人でも平均寿命は90歳を超え、50%以上が90歳以上生きる時代です。生まれたばかりの子どもたちは、平均寿命が100歳に達すると言われています。60歳で定年退職しても、あと20〜30年は十分に仕事ができる人が多いのが現実です。人生100年時代において、60歳はまだまだ現役世代なのです。

しかし、60歳以上の雇用には課題もあります。記憶力の低下、体力の衰えなどが挙げられますが、これらはテクノロジーで補うことができます。

高齢者×AI×ロボットの組み合わせ

高齢者の弱点とされる記憶力や体力を、AI(記憶・判断支援)とフィジカルロボット(肉体労働代替)で補えば、十分に戦力化できます。

AIによる記憶・判断支援
AIは大量の情報を瞬時に処理し、判断をサポートすることができます。これにより、経験豊富な高齢者が持つ深い知識とAIの処理能力を組み合わせることで、より高度な業務遂行が可能になります。例えば、過去の事例をAIで検索しながら、高齢者の経験に基づく判断を組み合わせるといった使い方ができます。

フィジカルロボットによる身体的負担軽減
重いものを持つ、繰り返し作業を行うといった身体的負担の大きい業務をロボットが代替することで、高齢者は体力的な不安なく働くことができます。例えば、アシストスーツやパワーアシスト機器を使えば、高齢者でも重量物の運搬が可能になります。

配膳ロボットの事例

猫型配膳ロボットを導入した飲食店では、時給換算で100円を切るコストで配膳業務を自動化できています。その分、人間でなければできない接客業務に人員を集中でき、賃金も高めに設定できます。このように、AIやロボットは人手不足を解消するだけでなく、人間の従業員がより付加価値の高い業務に集中できる環境を作り出し、賃金向上にも寄与するのです。

今後はペンギン型の高級タイプも登場する予定で、ファミリーレストランだけでなく、高級レストランでも導入が進むと予想されます。ロボットの活用は、もはや未来の話ではなく、現在進行形で実用化が進んでいます。


10. 今すぐ取り組むべき3つのアクション

中小企業を取り巻く厳しい状況の中で、持続的な成長を実現するためには、迅速かつ戦略的な行動が不可欠です。以下の3つのアクションを、今日から始めましょう。

アクション1:補助金情報を徹底的に調べる

経済産業省、厚生労働省、中小企業庁のWebサイトから、最新の補助金・助成金情報を入手してください。業務改善助成金、省力化投資補助金などは、今が申請のチャンスです。専門家への相談費用も補助対象となるケースがあるため、積極的に活用を検討しましょう。

補助金の申請には時間がかかるため、早めに情報収集を始めることが重要です。申請書類の作成に不安がある場合は、中小企業診断士や経営コンサルタントに相談することも検討してください。その相談費用も補助対象になる可能性があります。

アクション2:コアスキルの棚卸しを始める

現場の熟練社員を集め、「うちの会社の仕事の進め方」を書き出す作業を始めてください。1〜2ヶ月かけて、暗黙知を形式知に変換します。この作業を通じて、自社の強みを再認識し、それを次世代へ伝えるための基盤を構築します。

具体的には、以下のような質問を熟練社員に投げかけてみましょう。

  • 「この会社で長く働いてきて、一番大切にしていることは何ですか?」
  • 「新人に最初に教えるべきことは何だと思いますか?」
  • 「仕事をする上で、絶対に守らなければならないルールは何ですか?」
  • 「この会社ならではの強みは何だと思いますか?」

これらの質問への回答を集めることで、コアスキルの輪郭が見えてきます。

アクション3:オンボーディング体制を設計する

次に入社する社員のために、以下を準備してください。

初日〜1週間の教育スケジュール
新人が安心して業務に入れるよう、具体的な計画を立てます。初日は会社の理念や文化を伝え、2日目以降は実際の業務を段階的に教えていく流れを設計します。

直属上司とバディの役割分担
誰が何を教えるのかを明確にし、新人を孤立させないサポート体制を築きます。上司は業務の全体像と目標を説明し、バディは日常的な細かな疑問に答える役割を担います。

コアスキルマニュアル(初版でOK)
最初から完璧を目指すのではなく、まずは主要なコアスキルをまとめたマニュアルを作成します。PowerPointやWordで簡単にまとめるだけでも十分です。重要なのは、「形にする」ことです。

KPI設定と評価方法
スキル習得度と業績を連動させ、新人の成長を客観的に評価し、褒める仕組みを作ります。例えば、「1週間でこのスキルを習得する」「1ヶ月でこの業務を一人でできるようになる」といった具体的な目標を設定します。


まとめ:「乾いたタオル」を脱却し、持続的成長

中小企業の倒産急増と人手不足は、単なる「お金の問題」ではありません。人が入って、続いて、育つ仕組みがないことが根本原因です。財務諸表をいくら見直しても、「乾いたタオル」状態からは何も出てきません。

価格転嫁や財務改善だけでは限界があります。今こそ、以下の3つに取り組むべきです。

  1. 補助金を活用して、一時的な資金繰りを確保し、根本的な経営改善の時間を稼ぐ。
  2. コアスキルを明文化し、会社独自の強みを再定義することで、企業の独自性と競争力を高める。
  3. オンボーディングを仕組み化し、3日で戦力化することで、早期離職を防ぎ、人材定着率を向上させる。

これらを実行すれば、「3ヶ月で100万円の損失」を防ぎ、社員が辞めない、生産性の高い組織を実現できます。

**価格転嫁を受け入れてもらえる「現場力」**も、この取り組みから生まれます。熟練の技術と工夫が凝らされた「現場力」は、「この会社に頼めば安心」と取引先に思わせる信頼の源となり、適正な価格交渉の基盤となります。現場力の高い企業は、多少価格が高くても選ばれるのです。

今年から来年にかけて、新内閣の積極的な経済政策も追い風になります。今がまさに、中小企業が持続的成長へと転換するための重要な時期です。ぜひ、この機会にコアスキルとオンボーディングに本気で取り組んでください。年末には、こうしたテーマで実際の会場を使った研修会も企画していく予定です。一緒に、持続可能な成長企業を目指しましょう。

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中小企業における賃上げは、単なる「人件費(経費)の増加」ではなく、企業の持続的な成長に直結する重要な投資です。少子高齢化や人手不足が深刻化するなかで、優秀な人材を確保し、定着してもらうには、適正な賃金水準を維持することが欠かせません。賃金が低いと採用競争で不利になるだけでなく、従業員のモチベーションや生産性低下にもつながります。逆に、賃上げは「人材流出の防止」「職場の活性化」「企業ブランドの向上」といった好循環を生み出し、長期的な競争力強化につながります。

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