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京セラフィロソフィーから学ぶ、中小企業経営に活きる「人を動かす」経営哲学

経営理念を掲げてはいるものの、それが現場に浸透しない。組織として一つの方向を向いて進んでいる実感がない。そんな悩みを抱える経営者の方は多いのではないでしょうか。

本記事では、稲盛和夫氏が実践してきた**「京セラフィロソフィー」という経営哲学**について、実際に稲盛氏が創業した企業で働いた経験を持つ立場から解説します。単なる書籍の要約ではなく、中小企業の経営現場でどう活かせるのか、という視点で掘り下げていきます。

理念と現場を結びつける具体的な行動指針とは何か。組織を一つにまとめ、持続的な成長を実現するために必要な考え方を、実践的な視点でお伝えします。

京セラフィロソフィーとは何か

京セラフィロソフィーとは、稲盛和夫氏が京セラを経営する中で、実体験に基づいて導き出した経営哲学です。フィロソフィー、つまり「哲学」という言葉が使われていますが、これは単なる理想論ではありません。約600ページにわたる書籍にまとめられたこの内容は、会社としての具体的な行動指針です。

私自身、稲盛氏が創業したKDDIに勤めていた経験があります。当時、このフィロソフィーを日々の業務の中で目にし、実践してきました。正直に言うと、最初は「これって宗教じゃないか」と思った社員もいました。でも実際に読んでみると、書いてあることは極めて真っ当なことばかり。人として正しいことを、ビジネスの文脈で具体的に示しているものです。

ここで重要なのは、社訓や経営理念との違いを理解することです。社訓というのは会社としての正しい方法、つまり「What(何をするか)」を示すもの。経営理念は企業の存在意義、つまり「Why(なぜやるか)」を語るものです。

それに対してフィロソフィーは、「How(どうやるか)」に重点を置いています。理念を実現するために、社員一人ひとりがどう行動すべきか。判断に迷ったとき、どう考えればいいのか。そこまで踏み込んでいるのが、このフィロソフィーの特徴なのです。

なぜ「行動指針」が経営に不可欠なのか

経営理念を掲げている会社は多いでしょう。でも、その理念が現場の判断に活かされているかというと、そうでもないケースが多いです。なぜか。それは、理念から具体的な行動までの距離が遠すぎるからです。

例えば「お客様第一」という理念があったとします。素晴らしい理念ですよね。でも、実際の営業現場で、利益を優先すべきか顧客満足を優先すべきか迷う場面に直面したとき、どう判断すればいいのか。その判断基準が明確でなければ、結局は個人の裁量に委ねられ、組織としての一貫性が失われてしまう

京セラフィロソフィーが優れているのは、こうした日々の判断場面で立ち返れる具体的な指針を示している点です。判断に迷ったとき、フィロソフィーに照らし合わせて考える。そうすることで、組織全体が同じ価値観を共有し、一つの方向に向かって進めるようになります。

実際、KDDIは17社が合併してできた会社です。それぞれ異なる企業文化を持つ会社が、どうやって一つになれたのか。それは、このフィロソフィーという共通の行動指針があったからです。もともとライバル関係にあった会社同士が合併するわけですから、最初は反発もありました。でも、フィロソフィーに書かれていることは誰もが「正しい」と思える内容だった。その共通基盤があったからこそ、組織をまとめることができたのです。

5つの核となる考え方

約600ページにわたる京セラフィロソフィーですが、その核となる考え方を5つに絞ってお伝えします。これは私自身が読み込んだ上で、特に重要だと感じた要素です。

1. 心を高める

フィロソフィーの冒頭で語られるのが「心を高める」という概念です。心を高めるとは、人生の目的は心の浄化であり、心を立派にしていくことだと稲盛氏は言っています。

正直、この表現だけ聞くと「また宗教的な話か」と思われるかもしれません。でも、これは極めて実務的な話です。なぜなら、ビジネスの結果は、その人の心のあり方、つまり考え方に大きく左右されるからです。

稲盛氏は、人生や仕事の結果を決める方程式として、こう語っています。「考え方×熱意×能力=人生・仕事の結果」。この式の中で、能力と熱意は0から100までの範囲ですが、考え方だけはマイナス100からプラス100まである。つまり、どんなに能力があっても、考え方が間違っていれば、結果はマイナスになってしまいます。

だからこそ、心を高める、つまり正しい考え方を持つことが、すべての基盤になる。これは単なる精神論ではなく、ビジネスの成果を左右する重要な要素です。

2. 利他の心

「利他の心」とは、自分中心ではなく、他者のことを考えて行動するという姿勢です。稲盛氏自身、若い頃は決して完璧な人間ではなかった。受験に失敗したり、いろいろな挫折を経験してきた。そういう中で、多くの人に助けられてきた経験があるからこそ、利他の心の重要性を説いています。

ビジネスの現場では、どうしても自社の利益を優先してしまいがちです。でも、長期的に見れば、お客様のため、取引先のため、社会のために何ができるかを考える方が、結果的に自社の成長にもつながる。それが利他の心の本質です。

中小企業の経営者の方なら、この感覚は理解できるのではないでしょうか。目先の利益だけを追いかけていると、信頼を失い、長続きしない。逆に、お客様の本当の課題解決を第一に考えていると、紹介が生まれ、リピートが増える。それが利他の心を持つことの実践的な意味です。

3. 自ら燃える

フィロソフィーの中で、特に印象的だったのが「自ら燃える」という概念です。稲盛氏は、人間を3つのタイプに分けています。

火を近づけると燃え上がる「可燃性の人」。火を近づけても燃えない「不燃性の人」。そして、自ら勝手に燃え上がる「自燃性の人」

何かを成し遂げようとする人、特にリーダーは、自燃性でなければならない。自ら燃えるためには、自分のしていることを好きになること、そして明確な目標を持つことが重要だと稲盛氏は語っています。

これは組織運営においても重要な視点です。すべての社員が自燃性であるわけではない。可燃性の人もいれば、不燃性の人もいる。でも、リーダーが自燃性であれば、可燃性の人に火をつけ、組織全体を動かしていくことができる

稲盛氏自身、京セラだけでなく、全く畑違いの通信業界でKDDI(旧DDI)を立ち上げ、さらには航空業界のJALを再建しました。これができたのは、自ら燃える情熱があったからこそです。そして、その情熱が周囲を巻き込み、大きな成果につながっていきました。

4. インテグリティ(誠実さ)

私がこのフィロソフィーを読んで、頭に浮かんだ言葉が「インテグリティ」でした。これは英語で、日本語では「誠実さ」「真摯さ」と訳されることが多い言葉です。

ピーター・ドラッカーも、経営者に必要な資質として「インテグリティ」を挙げています。ただ、この言葉の意味は非常に深く、単純な翻訳では伝わりにくい。ある論文では、**「妥協性のない一貫性。自らの価値観や信条に忠実であり、ぶれない状態。そうあろうとする努力を具体的な行動で示し、結果に対する責任を果たすこと」**と説明されています。

京セラフィロソフィーに書かれているのは、まさにこのインテグリティです。稲盛氏自身、なぜこのような考え方に至ったのかと問われたとき、**「子供の頃から親や祖父母に言われてきた、人として正しいこと」**だと答えています。

公平、公正、正義、勇気、誠実、忍耐、努力、親切、思いやり、謙虚、博愛。こうした普遍的な価値観を、ビジネスの現場で具体的にどう実践するか。それを体系化したのが、京セラフィロソフィーです。

5. 原理原則に従う

ここまで少し哲学的な話が続きましたが、フィロソフィーは極めて実務的な内容も含んでいます。その代表が**「売上を最大にして経費を最小にする」**という原理原則です。

これを聞くと、「当たり前じゃないか」と思われるかもしれません。でも、この当たり前のことを徹底できている会社は、実は多くない

稲盛氏がJALを再建したとき、まず驚いたのがこの原則が守られていなかったことだそうです。各部署ごとに予算が決まっていて、使い切ることが前提になっていた。売上を上げる部署と、経費を使う部署が分かれていて、全体最適が図れていなかった。

中小企業では、このような問題は起きにくいかもしれません。でも、事業が拡大してくると、部署ごとの最適化が全体の最適化と矛盾することが出てきます。そのとき、「売上最大、経費最小」という原則に立ち返ることが重要になります。

ここで少し脱線しますが、稲盛氏は税金についても独特の考え方を持っています。多くの企業が節税に力を入れる中、稲盛氏は**「税金はしっかり払うべきだ」**と主張しています。なぜなら、納税も企業の重要な社会的責任だから。

実際、ブラジルの若い経営者が稲盛氏に「この国では税金を払うのは難しい」と相談したところ、稲盛氏は「騙されたと思って払い続けなさい」と助言したそうです。その経営者は10年近く真面目に納税を続けた結果、銀行から「あなたは信頼できる」と言われ、事業拡大のための融資を受けることができた。これは、原理原則を守ることの実践的な価値を示す良い例です。

フィロソフィーを組織に浸透させる方法

ここまで京セラフィロソフィーの内容を紹介してきましたが、重要なのは、これをどう自社に取り入れるかです。600ページの書籍をそのまま社員に配っても、読まれない可能性が高い。では、どうすればいいのか。

まず、経営者自身が深く理解することです。フィロソフィーは読み物ではなく、辞書のように使うものです。判断に迷ったとき、何度も読み返し、自分の考えと照らし合わせる。そうやって、自分の中に落とし込んでいく。

次に、具体的な場面で使うことです。朝礼やミーティングで、フィロソフィーの一節を取り上げ、「今の私たちの状況に当てはめるとどうか」と議論する。判断に迷ったプロジェクトがあれば、「フィロソフィーに照らすとどうか」と問いかける。こうした積み重ねが、組織への浸透につながります

実際、KDDIでは、ビジネス上の判断に迷ったとき、フィロソフィーに立ち返ることが習慣化されていました。例えば、取引先から少しグレーな提案があったとき。目先の利益だけを考えれば受けてもいいかもしれない。でも、フィロソフィーに照らすと、これは「動機善なりや、私心なかりしか」という問いに答えられない。だから断る。そういう判断が、組織全体で共有されていたのです。

中小企業の場合、大企業ほど複雑な仕組みは必要ありません。むしろ、経営者と社員の距離が近いことを活かして、日常の会話の中でフィロソフィー的な考え方を伝えていくことができます。「今のこの判断、フィロソフィーで言うとこういうことだよね」と、具体的な場面と結びつけて語る。それだけで、十分に浸透していくはずです。

まとめと次のステップ

京セラフィロソフィーは、稲盛和夫氏が約60年の経営経験の中で培ってきた実践的な知恵の集大成です。その本質は、「人として正しいことを、ビジネスの現場でどう実践するか」という問いに対する具体的な答えです。

心を高める、利他の心を持つ、自ら燃える、インテグリティを貫く、原理原則に従う。これらはすべて、組織を一つにまとめ、持続的な成長を実現するための土台となる考え方です。

私が40年近い社会人生活で学んだことは、ビジネスの本質は問題解決であり、そのためには正しい価値観と行動指針が不可欠だということです。京セラフィロソフィーは、その指針を与えてくれる、ビジネスにおける「聖書」のような存在だと私は考えています。

今日からできる3つのアクション

  1. まず、京セラフィロソフィーの書籍を手に取ってみてください。600ページすべてを読む必要はありません。目次を見て、今の自分や会社の課題に関連する章から読み始めればいいです。
  2. 次に、自社の経営理念や行動指針を見直してみてください。それは社員が日々の判断に使えるほど具体的ですか。もし抽象的すぎると感じたら、フィロソフィーのように、具体的な場面での行動指針まで落とし込むことを考えてみてください。
  3. そして、朝礼やミーティングで、フィロソフィー的な話題を一つ取り上げてみてください。「今週、利他の心で行動できた場面はありましたか」「自ら燃えるために、どんな目標を持っていますか」。こうした問いかけが、組織の価値観を共有する第一歩になります

経営は人を動かす仕事です。そして人を動かすには、共通の価値観と明確な行動指針が必要です。京セラフィロソフィーは、その最良の手本となるはずです。

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