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若手ビジネスパーソンが最初に身につけるべき「伝え方」の本質 ― 何を・どう話すか

営業でも、企画でも、総務でも。どんな仕事でも、結局は「人に伝える」ことが避けられません。上司への報告、お客様との商談、同僚との連携。毎日のように「伝える」場面に直面しているはずです。

でも、正直なところ、「何を話せばいいのか」「どう伝えればいいのか」っというのは誰も教えてくれません。

私自身、新入社員の頃を振り返ると、本当に何も分かっていなかった。大学を卒業して、企業の面接を受けて、会社に入って研修は受けたものの、実際のビジネスで「どうやって人に伝えたらいいのか」なんて、頭に入っていませんでした。

今は研修講師として若手社員の方々と接する機会が多いのですが、あの頃の自分に教えてあげたいことが山ほどあります。この記事では、特に若手の皆さんに向けて、「伝え方」の本質についてお話しします。


なぜ「伝え方」がビジネスの根幹なのか

交渉力、傾聴力、問題解決能力。ビジネスパーソンに必要なスキルはたくさんありますよね。でも、これらすべてに共通する前提があります。それが「伝える力」です。

交渉するにしても、相手がいないとできません。問題を解決するにしても、チームに説明しなければ前に進まない。つまり、どんな仕事も「他者に伝える」というプロセスを避けて通れないわけです。

行動で示す、文字で書く、プレゼン資料を作る。いろんな方法はありますが、基本的には「話す」ことが中心になります。だからこそ、何をどう話すかが、ビジネスの根幹を支えています。

ところが、これを体系的に教えてくれる場は意外と少ない。ロジカルシンキングやクリティカルシンキングの研修はあっても、「そもそも何を話すべきか」「相手によってどう変えるべきか」という本質的なことは、経験の中で怒られながら学んでいくしかありません。

私も新入社員の頃、上司に報告する時に「とてもいい感じでした」なんて言って、「とてもいいって、どういうことだ?」と怒られた経験があります。今思えば、そりゃそうだよなと。

でも当時は、何が悪いのか本当に分からないものです。

「何を話すか」が分かっていないと、どんなテクニックも無駄

最近、YouTubeやTikTokでも「PREP法で話せ」「結論から話せ」といったテクニックが紹介されていますよね。確かにそれらは有効です。でも、その前提として「何を話すか」が整理できていなければ、どんなテクニックも機能しません。

例えば、営業から帰ってきたあなたに、上司が「今日どうだった?」と聞いたとします。

この「どうだった?」という6〜7文字の質問

上司が知りたい情報がいくつも詰まっています。受注したのか、しなかったのか。したならいくらで、いつお金が入るのか。しなかったなら、なぜダメだったのか。次のアクションは何か。

でも、新入社員の頃の私は「結構いい感じでした」「とても好意的でした」なんて答えていました。抽象的で、具体性がゼロ。上司が本当に聞きたいことには一切触れていないわけです。

結論から話すというテクニックは正しい。でも、「何を結論とすべきか」が分かっていなければ、的外れな結論を述べることになってしまいます。これでは、いくらプレップ法を使っても意味がありません。

だから、まず整理すべきは「相手が何を知りたいのか」。それが見えてくれば、自然と話す内容も定まってきます。

役職や階級ごとに求められる情報は全然違う

もう一つ重要なのが、話す相手によって求められる情報が全く違うということです。

例えば、営業部の課長さんと部長さんでは、知りたいことが違います。

課長さんが知りたいこと
課長は現場に近い立場なので、今月の売上が目標に届くのか、届かないのかが最大の関心事です。個別の取引先ごとの進捗状況、具体的な数字、今週中にクロージングできる案件があるか。そういった「今月を乗り切る」ための情報を求めています。

部長さんが知りたいこと
一方、部長はもう少し大きな視点で見ています。今月の売上が目標に届くのは当たり前。その上で、今後この取引先とどういう取り組みができるのか、来期に向けてどんな戦略が描けるのか。取引先の社長や専務とどんな話をしたのか。そういった「中長期的な視点」での情報を欲しがっています。

だから、部長に対して「今月は◯◯商事から△△円の受注が決まりました」という報告だけだと、「それは分かってるよ。で、向こうの専務は、うちの新しい取り組みについてどう言ってた?」と聞き返されることになります。

同じ「どうだった?」という質問でも、課長に対する答えと部長に対する答えは、全く違う内容にるものということです。

これ、学校でも会社でも、あまり教えてくれないですよね。でも、日頃の会議や報告の場面で、課長がどんなことを重視しているか、部長がどんな観点で質問してくるか、よく観察していれば分かるはずです。それを整理する習慣をつけておくことが、若手のうちにできる一番の準備だと思います。

「どうやって伝えるか」よりも、まず「何を伝えるか」

伝え方の研修では、「ペーシング」「ミラーリング」「バックトラッキング」といったテクニックが紹介されることがあります。相手の話すスピードに合わせる、相手の言葉を繰り返す、といった技術ですね。

これらも有効ですが、実は「何を伝えるか」が定まっていないと、逆効果になることもあります。

私が若い頃、部長に怒られている最中に、丁寧にゆっくりと説明しようとしたことがありました。相手が怒っているから、こちらは冷静に、分かりやすく話そうと思いました。でも、3分ほど話したところで、さらに激怒されました。

「ガキに話すような、その言い方は何なんだ」

相手は怒っているのに、こちらがゆっくり丁寧に話すと、「馬鹿にされている」と感じたのだと思います。良かれと思ってペースを落としたのに、二重に怒られる結果になってしまいました。

つまり、テクニックよりも大事なのは「相手の状況を読むこと」。今、相手は何を求めているのか。怒りをぶつけたいのか、冷静に説明を聞きたいのか。それを見極めた上で、何をどう話すかを判断する必要があります。

相手の状況を読む ― 部長が「どうなってるの?」と聞く真意

営業をやっていた頃、毎月の初めの金曜日が憂鬱でした。月初の営業5日目くらいになると、部長から必ず聞かれます。

「鈴木、今月どうなってるの?」

この質問、表面的には「進捗を教えてくれ」という意味に聞こえます。でも、実際には違ういます。部長は大体の数字を把握しています。そして、おそらく目標に届かないことも分かっている。

だから、「どうなってるの?」という質問の真意は、「お前、分かってるのか? 対策は考えてるのか?」という問いかけです。

ここで、素直に「いやぁ、ちょっと厳しくて、今月は90くらいしかいかないと思います」と答えたら、もちろん怒られます。部長が求めているのは、現状報告じゃなくて、「この状況をどう打開するつもりなのか」という姿勢なです。

だから、正解はこうです。

まず、「申し訳ございません」と謝る。そこで5分でも10分でも怒られ続ける。お前何やってんだ、何考えてるんだ、と。

そして、2回目くらいに「お前、どうするつもりなんだ?」と聞かれたら、そこで初めて「実は、来週の◯曜日に◯◯商事の専務と部長にご同行いただき、こういう提案をする予定です」と答える。

最初から説明しちゃダメです。向こうは「物申したい」という気持ちがある。それを受け止める姿勢を見せてから、具体的な対策を述べる。この順番が大事ですよね。

これも、学校では教えてくれません。会社でも、先輩がわざわざ説明してくれることは稀です。怒られながら、経験の中で学んでいくしかない。

でも、こういうことを早めに知っておけば、無駄に怒られる回数を減らせますし、上司との関係も良好に保てます。経験値は凝縮できます。

実体験から学ぶ ― 110%達成したのに怒られた理由

ここで、私の失敗談を一つ。

ある月、売上目標が100だったとします。営業としては、もちろんそれを達成するために全力で動きます。そして、運良くいろんな案件が決まって、結果的に110になりました。

普通に考えれば、目標を10%上回ったわけですから、褒められるはずですよね。でも、実際には怒られました。

「お前、読みが甘いんだよ」

当時の私には、何を言われているのか全く分かりませんでした。目標を超えたのに、なぜ?

でも、今なら分かります。会社というのは、目標に対して予算を組んでいます。販促費、人件費、いろんなコストを計算して、売上100に対してこれだけの投資をする、という計画を立てている。

それが110になるということは、読みが外れているということです。もし最初から110いくと分かっていたなら、もっと効率的な投資ができたかもしれない。あるいは、翌月に回せる案件もあったかもしれない。

逆に90しかいかなかったら、それはそれで問題です。でも、110いったからといって無条件に喜べるわけでもない。経営者の視点で見れば、計画とのブレ幅が大きいこと自体が問題です。

営業としては売上が多いほどいいと思いがちですが、実は「読み通りに進めること」が求められている場面もありますよね。この視点、新入社員の頃には全く持っていませんでした。

そして、月初5日目の段階で、月末が90になるのか110になるのか、大体読めていないといけません。その読みができていれば、早めに対策を打てる。半月経ってから「90しかいかないです」では、もう遅い。何もできません。

こういう「数字の読み方」も、経験の中で学んでいくことですが、若いうちから意識しておくと成長が早くなります。

パワハラにならない叱り方、叱られ方

少し話が逸れますが、「伝え方」に関連して、パワハラについても触れておきます。

今の時代、上司も部下を叱りにくくなっています。どこまで言っていいのか、どう伝えればパワハラにならないのか、悩んでいる管理職の方も多いです。

私が思うに、パワハラとそうでない境界線は、「プライベートに立ち入るかどうか」だと考えています。

例えば、部下がミスをして、お客様からクレームが来たとします。上司としては、厳しく叱らなければならない場面ですよね。

「お前、これどうするんだ?」と問い詰める。ここまではOKです。業務上の問題だから。

でも、そこで「どういう親に育てられてるんだ」と言ったら、アウトです。プライベートに踏み込んでいるから。

業務として伝えなければならないことと、その人の人格や家庭環境は別です。ここを混同しないことが重要です。

昔は、上司と部下の距離が近かいものでした。週末にキャンプに行ったり、結婚式に上司を呼んだり。そういう関係ができていれば、多少厳しいことを言っても、お互い分かり合えた。

でも、今はそういう時代じゃありません。プライベートと仕事は分ける。その前提で、業務上必要なことはしっかり伝える。これがパワハラにならない叱り方だと思います。

逆に、叱られる側としては、「まず謝る」ことが大事です。遅刻した時、「電車が遅れまして」と理由から言うのではなく、「申し訳ございません」と最初に謝る。その後で、「実は◯◯で」と説明する。この順番を間違えると、言い訳がましく聞こえてしまいます。

こういうことも、社会に出て初めて学ぶことですよね。でも、知っておくだけで、無用なトラブルを避けられます。

もう一つの実体験 ― ウィン・ルーズの関係から学んだこと

これも30年以上前の話なのですが、ある取引先と、かなり条件の悪い契約を結んだことがありました。

うちとしては、どうしてもその商品を仕入れたくて、相手の部長さんにお願いして、通常よりもかなり安い価格で卸してもいました。部長さんも、しょうがないなぁという感じで、承諾してくれました。

それで1年ほど取引が続いたのですが、ある時、その部長さんにすごく怒られました。

当時は理由が分かりませんでした。こちらは感謝しているし、ちゃんと定期的に発注もしている。なのに、なぜ?

でも、今思い返すと、あれは完全に「ウィン・ルーズ」の関係でした。こちらは安く仕入れられて嬉しい。でも、相手は本来の利益を得られていない。

短期的にはそれでもいいかもしれません。でも、1年間ずっとその状態が続くと、向こうとしては不満が溜まりますよね。

私がすべきだったのは、どこかのタイミングで「そろそろ価格を見直しませんか」と自分から提案することだったのです。もしくは、発注量を増やすとか、別の形で相手にメリットを提供するとか。

でも、若かった私は、そんなこと考えもしませんでした。安く仕入れられることに甘えて、相手の状況を想像できていなかった。

これも、「何を話すか」「何を聞くか」の話。単に今月の発注数を伝えるだけじゃなくて、相手の状況を聞く。今の条件で大丈夫か、何か困っていることはないか。そういうコミュニケーションが必要でした。

交渉力の話をすると、よく「ウィン・ウィンを目指せ」と言われます。でも、実際のビジネスでは、気づかないうちにウィン・ルーズの関係になっていることがある。そして、それが長期的には双方にとって良くない結果を生む。

だからこそ、相手の背景を知る。相手に関心を持つ。それが、長期的な取引関係を築く上で不可欠です。

まとめ ― 経験値は凝縮できる

ビジネスにおける「伝え方」は、単なるテクニックではありません。相手が何を知りたいのかを理解し、その人に合わせた内容とスタイルで話すこと。それが仕事の成果を左右します。

私は40年近くかけて、怒られながら学んできました。でも、皆さんはそんなに時間をかける必要はありません。先人たちが苦労して編み出した「型」を素直に学べば、経験値は凝縮できます。

何を話すか。どうやって伝えるか。相手によって、どう変えるか。

これらを意識するだけで、上司との関係も、お客様との商談も、きっと変わってきます。

最後に、あの怒られた後の話をもう一つ。

月初の金曜日に部長に散々怒られた後、その夜、部長が「今日空いてるか? 肉食べるか」と声をかけてくれました。そして、高級焼肉店で、普段食べられないような肉をご馳走してくれたました。

「もっと大きい仕事してな」

部長たちは、ミッションとして売上を達成しなければならない。だから厳しく言う。でも、それは個人を否定しているわけじゃない。仕事として、必要だから伝えている。

そして、伝えた後は、ちゃんとフォローもしてくれる。この振り幅の大きさが、本当に勉強になりました。

今の時代、なかなかそういう上司は少ないかもしれません。でも、叱られる時には、相手のミッションや立場を理解する。そして、自分がすべきことを整理して行動する。

これができれば、きっと信頼される若手になれるはずです。

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