SNS向けコンプライアンス その3


みなさん、こんにちは。朽木鴻次郎です。ジャイロ総合コンサルティングで研修/セミナー 講師をしています。主なテーマはコンプライアンスの推進、ハラスメント防止などの企業法 務です。

今回のコラムは「SNS向けコンプライアンス」についてのその3です。(※1)

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前回まで(その1と2)は、会社や組織に働く個人からの視点で、個人としてSNSを楽しむ ためにコンプライアンスの点で気をつけること、そのためのSNSの使い方「SNSリタラ シー」のお話をしました。今回は、視点を変えて、個人ではなく、会社や組織の側からの視 点で、そこに働く人たちにSNSを適切適正に利用して楽しんでもらうために、どういうアプ ローチをとったらいいのかのお話をします。

(※1)本稿ではSNSの定義を広くインターネットで情報発信ができてインタラクティブな 意見交換機能がついているものとしています。ゆるい定義です。

1. SNSを禁止することはできない

SNS利用で怖いのは「無意識」や「ついうっかり」での情報漏洩や不適切な情報発信です。 重要な秘密情報や個人情報の漏洩、会社や組織の品位を損なうような発言がされてしまうこ とです。

それでは、会社や組織としてそこに働く人たちがSNSを利用することを禁止することはでき るでしょうか。もう15年以上前のことですが、当時勤務していたあるグローバル企業でそ の話題が出ました。各国の法務部門と協議した結果は「禁止することはできない」でした。 個人の表現の自由を制限することになるし、プライベートな領域に踏み込みすぎることが懸 念されました。禁止の規定を作ったとしても無効と判断されるだろうし、かえって個人の不 満を増大させトラブルに発展しかねない、と。

禁止はしないまでも、SNSを利用することの許可を求める、あるいは届け出る(報告す る)などの「許可制」「届出制」とすることも同様の理由で、違法あるいはトラブルを助長 するものだから不可であると判断しました。

 

2. 一定の制限をかけることはできる

それでは「野放し」にせざるを得ないのでしょうか?

それもまた違います。会社や組織は、秘密保持や信頼性担保のため、合理的かつ必要な範囲 で、そこに働く人たちのSNS使用に制限をかけることができます。ただし、その場合は、 ルールを明確に示しておく必要があるでしょう。「なんとなくダメ」「普通ダメだろう!」 ではなく、公平・公正なルールがあることを論理的に説明して、社会に公表したり(SNSポ リシー)、社内や組織内に徹底させること(SNS利用ガイドライン)を考えましょう。

 

3. SNSポリシーやガイドラインの趣旨

会社や組織が公式にSNSを利用するにあたっては、法令を遵守し、差別などの人権侵害を 行わず、品位を保ち、広く社会に貢献することを目指すなどと定めるのが「SNSポリシー」 です。これはホームページ等に掲載し対外的にアピールするためのものでもあります。そん なポリシーに基づき、その会社や組織に働く人たちにSNS利用についてはこういうことに注 意しなさいと定めるのが「SNS利用ガイドライン」です。こちらは公開するというよりも内 部的な規定となるでしょう。

 

4. ガイドラインでできないこと/できること

会社や組織が合理的な範囲でそこで働く人たちの私的SNSの利用に制限をかけることがで きます。ただし、個人のSNSですから、何でもかんでも禁止することはできません。

 

4-1 制限できないこと

・NG:SNS利用の禁止

そもそもSNS利用を禁止することはできません。許可制や届出制もアウトです。(先に述べ た通りです。)

・NG: 勤務先開示の禁止

勤務先を「開示するな」と命じることはできません。勤務先を公開するか非公開にするかと いうのは自己責任ですが、注目を浴びることもあると釘を刺しておくことはできます。例え ば世間的にも名の知れた有名企業や官公庁に勤めていると公開することはとても注目を浴び る行為です。あるいは、急に勤務先が本人と全く関係ない事件で注目を浴び、そこで働く個人のプライバシーも暴露の危険にさらされることもあります。そんなことも啓発しておくと いいでしょう。

・NG:実名の禁止

特定されないようにと「実名でのSNS利用を禁止」することはできません。実名でSNSを 利用するか、ハンドルネーム(仮名)で行うか、全くの匿名で行うかもその人の自由。ただ し、ネット上で完全匿名、完全仮名は担保されないことは、各人に十分に注意しておくべき です。

・NG: 政治的意見の禁止

公的な機関であればある程度の制限がある場合もありますが、完全な民間企業である限り政 治的な意見の表明等も禁じることはできません。ただし、個人の意見としてです。会社や組 織の意見と混同されないように注意してもらうことが必要です。

・NG: 友達申請の強制や開示範囲の制限解除を強要する

上司から「オレにも見せろ」と命じることはできません。どんなにいい関係を保っていて も、部下に対して上司から友達申請をするのは要注意行為とご理解してください。

 

4-2 制限できること

一方で、職場のネット環境や機材等の使用を禁止することはできます。

備品のPCやスマホ、職場のネット環境(wifiなど) を使っての私的SNSの利用を禁止する ことができるのは当然です。職場のメアドを使っての私的SNSも禁止できるでしょう。一 方、個人のPCやスマホを昼休みや始業前・終業後に使用することまで禁止できません。た だし、工場の生産現場ラインなど、職場によっては、秘密保持の観点からそもそも私物の PCやスマホの持ち込みを禁止することもあるでしょう。

もちろんその会社や組織のSNSに向けての考え方にもよります。個人にもバリバリSNSを 使ってもらいたい、そんな場合はあえて禁止する必要はありません。

4-3 注意喚起しておくべきこと

以上、制限できないこと、制限できることを示しました。とはいえ、SNSでのうっかりの 情報漏洩や不適切発言でのトラブルなどは回避したいものです。そこで、SNSガイドライン でSNSの使い方(リタラシー)をしっかり啓発した上で、「SNSでの重要情報の漏洩や、 不適切な発言により会社の品位が毀損されることのないように十分気をつけて、万一事故が 発生した場合には、就業規則に従って処分されることがある」などと記載して、注意を喚起 しておくといいと思います。

 

5. モニタリング

上司や管理職が、業務として使用させている部下のPCのインターネット閲覧履歴や、メー ルの内容をモニタリングできるのは当然のことです。就業時間中にサボっていないか、情報 漏洩等をしていないか、そんなことをチェックするためですから。

それでは、上司や管理職は、部下や職場の人間の私的なSNSの内容をモニターすることがで きるでしょうか? 答えはイエスです。一般に広く公開しているSNSならモニターすること ができるでしょう。もちろん非公開だったりする場合(鍵アカ・公開範囲限定アカウント) は、無理にモニタリングすることはできませんからご注意を。とはいえ、業務としてモニタ リングするかどうかは、事前に内部で十分に議論した上でのご判断になると思います。

 

6. 入社前や退職後のSNS

入社前とはいえ、内定者が入社に合意したその段階で、彼/彼女らの私的SNSの利用につい ても「ポリシーやガイドラインに基づいて指導」しておくことも考えておくべきです。内定 者同士がSNSで繋がることはよくあること。新入社員研修もまだ始まってはいなかったり する段階で発生しやすいといえる「SNSでのコンプライアンス違反」、特に「情報の漏洩」 には注意したいものです。

入社前と同じく、退職後もSNSでの情報漏洩や不適切発言は好ましくありません。退職時 の誓約書にSNSでのコンプライアンスについての重要事項を記載しておくといいでしょう。

 

まとめ

今回のコラムでは、会社や組織の側からの視点で、そこに働く人たちにSNSを適正かつ適切 に利用して楽しんでもらうために、どういうアプローチをとったらいいのかのお話をしまし た。要はポリシーやガイドラインを明確にして、適正かつ適切な方法でSNSを利用してもら うということです。それはガチガチの管理ではなく、正しくSNSを利用して健全に楽しむ、 その方法を皆で考えて、明確に示して共有していこうということですね。

著者 朽木鴻次郎

ジャイロ総合コンサルティング(株)・コンサルタント
「企業法務・コンプライアンス」をテーマとし「企業の秘密を守る」「SNS利用の注意点」「パワハラやセクハラ、職場のいじめやいじり」などの領域に詳しい。
84年一橋大学法学部卒業後、数社での経験を経て、04年から任天堂勤務。DS/3DSシリー ズ、Wii/Wii U、Switchなどの立ち上げに関わるとともに国内外のサプライチェーンでの CSR/法令遵守推進活動に従事。18年に任天堂退職。一貫して法務畑。1960年(昭和35年)生。

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