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「知床観光船」「吉野家」から、リスクマネジメントについて考える

最近世間を騒がせたニュースとして記憶に新しい「知床観光船沈没事故」と、「吉野家取締役による失言」。この2つのニュースはそれぞれまったく異なる性質のものですが、企業のリスクマネジメントという観点から紐解くと、共通項が浮かび上がってきます。今回は、企業が行うべきリスク管理や、リスクに対する考え方について考えていきます。

大きな事故の裏に見える、危険の常態化

2022年4月23日に発生した「知床観光船沈没事故」は、事故の全容とともに、観光船を運行する会社の安全管理体制や経営体制などが明らかにされ、いわゆるトップダウンの「ブラックな管理体制」であったことが世間に知れ渡りました。事故があった観光船の「KAZU I」は前年の2021年6月にも座礁事故がありましたが、このときはけが人・死亡者などはいませんでした。

一方、大手外食チェーン・吉野家は、2022年4月16日に大学の社会人向け講座で講師を務めた常務取締役本部長(当時)が、若い女性を囲い込むマーケティング戦略を品位に欠ける言葉で表現し、批判を集めました。吉野家では、3月にお客様相談室の対応に、そして5月には採用担当者による就職差別ともとれる発言にも抗議の声が上がっており、短期間に3回もの炎上を起こしています。女性客の集客強化どころか、女性から敬遠される要因を作ることになりました。

この2つの企業は、いずれも大事故・大炎上を起こす前にも事故や炎上がありました。その際に安全管理や社内の体制の見直しに目が向けば、事故は未然に防げたかもしれないと考えざるを得ません。

1つの事故の背後には300件ものヒヤリハットが潜んでいる!?

ハインリッヒの法則

たとえば、ある会社でパラハラのニュースが取り上げられた場合、受け手側は「ああ、こういう社風の会社なんだろう」「普段からハラスメントがはびこっているんだろう」と考えてしまうこともあります。それは、あながち間違いではないかもしれません。

1931年にハーバート・ウィリアム・ハインリッヒが著書「災害防止の科学的研究」で提唱した「ハインリッヒの法則」では、工場労働で起こる1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故、300件の潜在事故(ヒヤリハット)があると述べています。
同様の調査として1969年にフランク・バードが発表したのは、重大事故1件に対して10件の軽微な事故、30件の物損事故、さらに600件の潜在事故が潜んでいるというものです。また、1974年には、タイ、ピアソンの2名により重大事故1件に対し10件の軽微な事故、50件の応急処置、80件の物損事故、400件の潜在事故があると発表されました。

※ヒヤリハット…ともすれば重大な事故につながる可能性がある危険な状況

それぞれ1/330、1/631、1/541の確率で重大事故が起こるとされています。「ヒヤリハット」(前兆)の時点で事故の可能性を見出せるかどうかが、企業のリスク管理には重要なポイントです。これらの法則は物理的な事故を調査した結果から導き出されたものですが、吉野家の一連の騒動のような発言によるアクシデントにも当てはめてみると良いでしょう。

ドミノ理論

前述のハインリッヒが提唱した「ドミノ理論」では、下記の5つのドミノの駒(要因)の連鎖で事故や災害が起こると定義されています。

  1. 環境的欠陥
  2. 管理的欠陥
  3. 不安全な状態・行動
  4. 事故
  5. 災害

このうち1つを取り除くことで事故・災害につながるドミノ倒しは防止できるとし、なかでも「3.不安全な状態・行動」をなくすことの重要性を説いたものです。

リスクとの共存戦略

リスクの排除は可能か?

企業活動をしていると、リスクのある行動を取らなければならない場面が多々あります。リスク回避について考える際に心にとどめておきたいのは、「リスクを完全に取り除くことはできない」ということです。

たとえば、TwitterやInstagramなどのSNSは、企業の炎上のきっかけになる場面が多々あります。自社アカウントの事故や炎上を避けるのであれば、あえてSNSを運用しないという選択肢もあるでしょう。しかし、炎上を恐れてSNSをしないという選択は、自社のファンを作る機会の損失にもつながります。

「何もしない=ノーリスク」ではなく、どんな行動にも必ずリスクは潜んでいます。企業として活動し成長を続けるには、リスクを完全に排除するのではなく、リスクと共存するというスタンスでいることが大切です。これは、リスクマネジメントのベースとなる「リスクテイク」に通じる考え方でもあります。

リスクテイク

リスクテイクは、何かしらの決断をする際に、それにリスクを伴うリスクを明確にしたうえでものごとを進めることを指します。「これをするにはこんなリスクがこれだけある」→「だからこういう対策をする」という方針を明確にしておくと、万が一の事態に陥っても冷静な判断や対処ができるでしょう。

現代の企業は、経営や財務上のリスクだけでなく、情報セキュリティー、コンプライアンス違反、業務で発生する物理的な事故、自然災害など多種多様なリスクと向き合わなければなりません。自社の活動にはどんなリスクがあるのかを、徹底的に洗い出してみることをおすすめします。そのうえで、リスクの把握やリスクヘッジがなされているものとそうでないものを仕分けすることで、リスク管理がスムーズになります。

事故や炎上の背景にあるものは

たとえばハラスメントが横行している企業は、従業員一人ひとりが最大限にパフォーマンスを発揮しているとは考えにくいでしょう。また、財政状況が逼迫している企業は目先の利益を追求するあまり、安全管理やコンプライアンスの遵守が疎かになる可能性があります。

新型コロナウイルス感染拡大による経済活動の状況変化や、ロシアのウクライナ侵攻の影響下におけるインフレなどを受け、日本の企業も大きく圧迫されています。物価が上昇し、競争が激化しやすいこんな状況こそ、モラルが損なわれてしまうもの。モラルの欠如は事故や炎上にもつながります。企業にとっては、今こそ襟を正す機会とも言えるのではないでしょうか。

セミナー&研修.netでは、リスクマネジメントに関する研修を多数用意しています。前兆の察知からリスク回避につなげるための具体的な方法や、SNSの炎上対策、情報セキュリティー、有事の際のBCP(事業継続・復旧計画)の策定まで、一社一社の状況に合わせてカリキュラムを提案します。ぜひお気軽にお問い合わせください。

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