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続発するパワハラ事件

最近の報道によると、相撲界でまた力士によるパワハラ事件が発生し、この事件の加害者が相撲界を引退する顛末に陥ったそうだ。驚くのは、一年ほど前のパワハラの被害者が、今回の事件では加害者ということだ。格闘技の世界のことなので、一般の企業とは異なると決めつけるのは早計だ。

 

総合労働相談コーナー(国が設置した機関)に寄せられた労働相談件数は年間1万件を超え、その中で最も多い相談内容は「いじめ・嫌がらせ」であり約25%を占めており、年々その比率は増加しているそうだ。「いじめ・嫌がらせ」とは、すなわち、パワハラを指すと解釈される。もちろん、相談件数が増えていることが意味することは、世の中でのパワハラ発生件数が増えているというわけではない。「パワハラを許さない」という世の中の風潮が浸透するにつれ、従来は我慢していた上司の横暴やいじめを、昨今は第三者に相談する割合が増えてきたと解釈されるからだ。

 

いずれにせよ、パワハラが後を絶たないことに違いはないようだ。なぜパワハラ事件がこれだけ騒がれ、悪いことだとの認識が深まっているのにパワハラが根絶しないのか、少なくともパワハラ事件が減少に転じていないことが不思議だ。

 

なぜパワハラが発生するのか

パワハラの発生要因は次の4つに集約されると考える。

・パワハラへの無自覚
・(部下と上司の間などの)コミュニケーションの不足
・職場での過度なストレスの存在
・(加害者側が)怒りの感情を抑えきれない人格

上の4つの要因は相互に関連するものではなく、またあるパワハラ事件が一つの要因だけに起因することはあり得ない。むしろほとんどのパワハラ事件が、上の全ての要因を含んでいるのだろう。

 

実は上の4つの要因に加えて加味しなければいけない要因がある。それは、 “パワハラ遺伝子”とでも称すべき要因だ。このコラムの冒頭で紹介したことを思い出してほしい。パワハラの被害者が一転して加害者になった。これは、“パワハラ遺伝子”が存在することの傍証だと考えている。すなわち、パワハラ被害者となった人は、その事実を重く受け止めるからこそ、上司の立場に立った時に部下などに強い言動をしがちになる。部下には厳しく接しなければ従わないと感じている。パワハラ気質は遺伝子となって代々受け継げられていく。これが“パワハラ遺伝子”だ。

 

このコラムをお読みの方の中にパワハラ被害者がおられたら思い起こしてほしい。その後あなた自身が部下に強く当たり、厳しい指導を行うことを是としていないだろうか。もしかしたら、あなた自身がパワハラの加害者になったことはないだろうか。この要因こそが“パワハラ遺伝子”だろう。

 

パワハラを防ぐには

パワハラを防ぐには、前に挙げた4つのパワハラの要因を取り除くことが効果的であると考えられるが、さらに“パワハラ遺伝子”を断ち切ることも重要なことだと考える。

 

4つのパワハラの要因の中で、①パワハラへの無自覚、②コミュニケーションの不足、③職場での過度なストレスの存在は、職場の環境整備・配置転換や教育、さらに徹底的な職場のクリーン化(何でも隠し事のない職場とすること)を目指す中で、取り除くことは可能かも知れない。少なくとも目指すべき方向は明確になっている。

 

しかしながら、④怒りの感情を抑えきれない人格と、番外として挙げた“パワハラ遺伝子”は多分に個人的・属人的な要因であり、取り除くのに苦慮するだろう。感情を抑えきれない人格を持つ人であっても、仕事ができないわけではないだろうし、むしろ感情の起伏が大きい人ほど、何事にも熱心に取り組む優秀な社員であるかも知れない。この領域はアンガーマネジメントに属する感情のコントロールの問題であり、何が自分を怒らせるのかという客観視できる自身の感情分析が有効となる。

 

また、パワハラ遺伝子を持つ人は、かつて厳しい上司に鍛えられたからこそ、仕事には厳しく、部下を何かと鍛えようとするだろう。この行動は決して間違っていない。ただ、その人の心の奥深くに「人には厳しく接することが正しい」という考えが強すぎることが問題であり、自分の厳しい言動を受ける立場の人からの見方や感じ方への配慮が足りないことが問題とされる。パワハラと厳しい指導とは紙一重の差であることを認識した上で、決してパワハラの加害者を責め過ぎないことも重要な対策となる。

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