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日大アメフト、悪質ルール違反タックル問題と「パワーハラスメント」との関係

世間を騒がせた問題のプレーは、5月6日の関学大と日大の試合で発生した。関学大のQBがパスを投げ終え、無防備になった背後から、日大の選手が激しくタックル。関学大の選手はひざなどに全治3週間のけがを負った。問題のシーンはネット動画で拡散し、日大アメフト部に対する批判は一気に高まっていく。23日には負傷させた選手が実名で記者会見を行い、謝罪と状況説明を行ったが、監督・コーチによる指示があった事は明白だと思わせた。その後になって、やっと重い腰を上げた日大監督による記者会見は「全て私の責任」と言いながら、選手の言い分を真っ向から否定するその姿勢は真相解明に程遠く、見ている者の疑念とイライラ感を強めただけで終わった。記者会見は全くの失敗と言わざるを得ない。

明治時代の創学という歴史を持ち、その規模日本一という日大は今回の事件により、その伝統を汚し、ブランドを毀損してしまったことになる。合わせて、少子化の進展で大学運営が難しくなると指摘されるなか同大学は致命的なミスを犯したのである。

当事件の背景にあるのは、監督、コーチの個人的な問題に加え同大アメフト部の伝統・文化に起因する「パワーハラスメント体質」にある事は間違いない。

パワーハラスメントについて厚労省は、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義している。「職場」を「日大アメフト部」と置き換えればパワーハラスメントが今回の事件の主因である事は理解できる。

パワーハラスメントの要因は二つに大別することができる。一つはハラスメントを行う者の個人的な性格・資質が原因となるケースである。例えば、攻撃的性格の強い者が相手に対して常識を外れた厳しさで接することで相手の気持ち(精神)を傷つけてしまうケースや、複数の者が1人を対象に「無視」や「暴言」でいじめるといったケースが上げられる。しかし、こうしたケースはイジメを行っている者以外から見れば明らかにハラスメントだと気づくことが多く、上位者からの注意もあり得るし、イジメを受けている当人も相談が可能な場合が殆どで致命的な状況に発展してしまうことは少ない。他方、組織(日大アメフト部)の伝統・文化に起因するパワハラはその中に入れば、それは空気と化しており、非情なイジメも選手を鍛えるためのシゴキとなり、愛のムチといったことにさえなり得る。山本七平氏の言う「空気」がつくられ、イジメる側もイジメられる側も支配してしまう。そこには独自の方言(言葉)が生まれ、コーチの言った「潰してこい」は余人の知らぬ独自の意味(ルールなんか気にするな、少々ならケガもケガの内には入らん、勝てなきゃ意味ないぞ?)を持つことになり、正常な思考と言葉を奪ってしまう。こうした中で監督・コーチといった上位者からのポジションパワーにさらされれば、殆どは正常な思考を奪われ、ルールを外してしまう。結果的に、誰も異常に気づかないうちに致命的な状況を招来してしまったのである。

今回の事件では二つの要因が絡み合う事で負の連鎖が起きてしまい解決の道筋がさらに掴みにくい状態に陥ってしまったと考える他はない。

ハラスメントに係るコンプライアンス違反はそれ自体に違法性があるのみならず、パワハラは卑怯なふるまいとして世間一般の目に触れることから、一般的な不祥事よりも企業・組織のブランド価値を大きく損なってしまうケースが多い。たった一度が致命傷になり易く企業・組織にとってはしっかりとした対策が不可欠である。

ハラスメント研修【管理職向け】

パワハラ対策のA.B.C

パワハラ対策のA.B.CはB.C.Aの順番で進めるのが効果的だ。

BはBefore(事前対策)のことであり、組織全体がパワハラに対する正しい認識を持つことから始めることである。そのためには「パワハラ研修」の実施ということになるが、多くの場合、上位者(ポジションパワーを有する者)は受講せず、下位者が受講者の中心となっている。これでは研修効果は得られない。上下が共にパワハラについて考えることで実効的な効果を得られるのであり、こうした研修の機会を通じて上下間の風通しを良くすることは副次的効果となり、業務効率の改善につながる。

私共のパワハラ研修では「パワハラ自己チェックリスト」を付けており、自らの「パワハラ危険度」に客観的に気づけるようにしている。こうする事で、組織風土に起因するパワハラに対して有効な気づきを得ていただいている。

CはCommunication(意思の疎通)のことである。今回のケースでは選手の発言とは裏腹に監督は「指示していない」と言う。しかし、選手の側は明確に「ケガを負わせろ」と聞いているのだ。これではチームとしての態をなしていない。パワハラを認定する場合、イジメを受けた当人がイジメられたというだけでは認定し難い。筆者は以前に長期間の航海をする調査船の乗組員を対象に「ハラスメント」研修を担当したことがあるが、相手を「怒鳴りつける」行為は一般的にはハラスメントとなる可能性が高いが、風と揺れの強い船上は命の危険もあり「怒鳴る=気づかせる」は正常な行為であってパワハラには該当しない。要するに、パワハラの研修では上下間の意思疎通と価値認識の同化が不可欠である。米海兵では、あらゆる機会を通じて密度の高い対話の場を設けており、上下一体のチーム力強化を徹底することで世界最強の組織を維持しているという。

私共の研修は対象企業の業界的特性を充分に確認した上で当該企業における意思の疎通を考えたオリジナルの研修としてカリキュラム構成するケースが殆どである。面倒でもこうした事なしにハラスメント対策の実効を上げることは難しい。

AはAfter(事後対策)である。パワハラは人と人の関係性の中で起こる。新人対ベテランの意識の食い違いが問題に発展するケースも少なくない。人が絡むことだけに万が一の事故・事件はあり得ると考えておく必要があり、事件を拡大させない対応が不可欠だ。先にも記したように日大の対応は完全な失敗と言って良い。

事後対策の中心は「マスコミ」対策が主となり、3S対策がポイントになる。

スピード、すべて、誠実に の3つである。

日大の事例で言えば、当該選手の記者会見の後に監督・コーチが会見を行ったことで記者からの突っ込みは非常に厳しいものにならざるを得なかった。また、後からの言い分は言い訳ととられることも少なくない。スピードを持って対処することが事件の無用な拡大を防止するポイントになる。「すべて」はどんなに隠しても「何れはばれる」ということである。マスコミの基本姿勢は「強きをくじき、弱きを助ける」であり、監督・コーチは「強き」の代表であり格好の標的になる。マスコミは徹底追及に走り、結果的にすべては白日の下にさらされることになるだろう。マスコミという相手は「隠せば探る」が仕事であり、そのプロなのだ。どうせ全ては知られてしまうのだと腹を括って、すべてを話すようにすれば、マスコミは途端に興味を失う。

「誠実に」は当たり前の話であって、マスコミを通じて見ているのは世間一般なのである、それは貴社の取引先、顧客、株主なのだ。特に映像化する報道では、見た目も重要なポイントになる。スーツ、ネクタイの色柄、態度、語調、は控えめを中心にすべきだし、会話応対に関しては事前に1時間でも良いからリハーサルぐらいはやっておくべきであろう。

 

文 ジャイロ総合コンサルティング㈱会長 大木ヒロシ

 

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