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どうするカスハラ!重要性と課題

カスハラ(カスタマーハラスメント)とは、お客による従業員(顧客対応者)への嫌がらせや理不尽な要求などを指す。これにより、従業員の離職率が高まり、企業の販売・営業活動に支障をきたす可能性も指摘されており、人手不足に悩む企業にとって、(カスハラ)は無視できない問題となっている。

実際にサービス(小売販売含む)業でカスハラを受けた経験があると答えた人は46.8%にのぼり、実に二人に一人がカスハラを受けている。

※UAゼンセン(全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)「カスタマーハラスメント実態調査」(2024年1月~3月実施)より

こうした状況を受けて、東京都では条例の制定を進め、国も厚生労働省を中心に対策の強化に乗り出し「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」等の参考資料が提示されており、カスハラは消費者にとっても企業側にとっても避けては通れない新たな問題となっている。

「お客様は神様ではない」でも「お客様あっての商売(ビジネス)ではある」

カスハラ対策の難しさは、正当なクレームとカスハラの線引きにあり、正当なクレームに対して不適切な対応に終始すれば、お客の信頼を失い、顧客離れにつながる可能性も否定できない。また、そうした事態がお客のUGC等を介してネット上に拡散すれば当該企業における損失は計り知れない。

お客と従業員の立場の違いから、平等感が損なわれることがある。しかし、日本国憲法第14条第1項には、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」とある。「立場の違いを理由に、お客のハラスメントを許容することはできない」が基本である。

しかし、一方で、ビジネスにおいて、お客は重要な存在であることも確かだ。これからの人口減少社会において、お客を大切にすることにより形成される固定客化は全ての企業にとって業績拡大には欠かせない条件であることは間違いない。

従業員に対して「給料は誰がくれる」のかと問うたとき「会社です」と答えるかも知れないが、それは結果的にそうなっているだけで、お客に買って頂いた金額の中からしか給料は得られない事に気づいて欲しい。

そうした事から考えるにカスハラは決して許される事ではないが、カスハラ(顧客によるイジメ)とカスタマーサティスファクション(顧客満足)とのバランスに思いをいたすことはとても重要ではないかと思われる。

要するに、自社として「お客としての正当な苦情」と「お客的立場にこじつけたハラスメント」を明確にし、ルール化しておく必要があるということである。

正当な苦情とカスハラの違いは、お客側の「態度・言動」と「要求内容」が合理的でかつ社会常識に沿っているか否かによる

例えば、現段階での厚生労働省のガイドラインによれば、

「カスタマーハラスメントとは、顧客や取引先など(以下「顧客等」)からのクレーム全てを指すものではありません。顧客等からのクレームには、商品やサービス等への改善を求める正当なクレームがある一方で、過剰な要求を行ったり、商品やサービスに不当な言いがかりをつける悪質なクレームもあります。不当・悪質なクレーム、いわゆるカスタマーハラスメントからは従業員を守る対応が求められます」とし、顧客からのカスハラとなり得る「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」の例として。

  • 企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合
  • 要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容と関係がない場合

の二つをあげており、企業側が悩む現実的な顧客等からの行為として、以下のような「カスハラの類型(具体例)」をあげている。

  • 身体的な攻撃(暴行、傷害)
    足で蹴られる、胸ぐらを掴む、髪を引っ張る、火の着いたタバコを投げる、等。
  • 土下座の要求
  • 継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動
    大声、暴言で執拗にスタッフを責める・店内で大きな声をあげて秩序を乱す・大声での桐喝、罵声、暴言を繰り返す等。
  • 拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
    時間拘束(一時間を超える長時間の拘束、居座り・長時間の電話・時間の拘束、業務に支障を及ぼす行為)、リピート型(頻繁に来店し、その度にクレームを行う・重なる電話・複数部署にまたがる複数回のクレーム)、等。
  • 差別的な言動
  • 性的な言動
    特定の従業員へのつきまとい・従業員へのわいせつ行為や盗撮
  • 従業員個人への攻撃、要求
  • 商品交換の要求
  • 金銭補償の要求
    言いがかりによる金銭要求・私物(スマートフォン、PC等)の故障についての金銭要求・遅延したことによる運賃の値下げ要求・難癖をつけたキャンセル料の未払い、代金の返金要求・備品を過度に要求する(歯ブラシ10本要望する等)・入手困難な商品の週剰要求・制度上対応できないことへの要求・運行ルートヘのクレーム、それに伴う遅延への苦情・契約内容を超えた過剰な要求
  • 謝罪の要求(土下座を除く)

 これらの例から、正当なクレームは問題の具体的かつ合理的な解決を目指すものであり、カスタマーハラスメントは不適切な態度や過剰な要求により、他人に迷惑をかける行動であると区別することができる。何れにしても、過度であれば行為者(カスハラをした側)に対して、はた目としても嫌悪感を与えることは少なくない。

例えば、ある中年男性が店に対して「いろいろと文句を言ってやることは、店とスタッフの教育そのモノだ」との思い込みで、自分の息子と出かけた飲食店で出てきた料理に「量が少ない、もう一度つくり直せ」と怒鳴りつけた。それを聞いていた息子は「なに言ってんだよ、みっともないよ、いい加減にしてよ」といって席をたってしまった。カスハラも正当性を失えば単なる独りよがり「イジメ」行為に過ぎず、傍目に自分の品格を損なうばかりのことになる。

 正当かつ正常なクレームを超えたカスハラは、行為者と当該企業にとって良いコトはまるで無い。故に、企業として「正当なクレーム」と「カスタマーハラスメント」の明確な線引きに基づいたルール設定が必要不可欠なのである。

 企業として「正当なクレーム」と「カスタマーハラスメント」を明確に区別するためのルール設定は、「顧客サービスの質を保ち」つつ「従業員を守る」視点が欠かせない。

クレームの正当性評価基準の明確化

クレームが製品やサービスの不具合、不足、または誤解に基づいているかどうかを評価する基準を設ける。顧客が提示する問題が実際に存在するか、または合理的な期待に基づくものかを確認する。

適切なクレーム処理手順の確立

全てのクレームを文書化し、迅速かつ公正に対応するためのプロセスを定め、顧客からのクレームには、決められた時間内に初回応答を行い、適切な解決に向けたステップを案内する。

従業員へのサポートとトレーニング

顧客との対話で発生する可能性のあるシナリオについてのトレーニングを提供。カスタマーハラスメントに対処する方法、エスカレーションプロセス、心理的支援を従業員に提供する。

カスタマーハラスメントの定義と対応策

攻撃的、脅迫的、不適切な言動をカスタマーハラスメントと定義。ハラスメントが発生した場合の具体的な対処法を規定し、必要に応じて法的措置を含めた対応を行う。

顧客とのコミュニケーションのガイドライン

顧客とのコミュニケーションにおける期待される行動標準を明確にし、それを顧客にも理解してもらう。不適切な行動を取った顧客には、その行動が受け入れられないことを丁寧に説明し、改善を求める。

フィードバックと改善のループ

クレーム処理の効果を定期的に評価し、プロセスの改善を図る。従業員と顧客からのフィードバックを積極的に収集し、サービスの質を向上させる。

 以上のようなことがらをベースに社内での話し合いを行うことで、カスハラ問題への取り組みを効果的に行うようにしていただきたい。

優れたカスハラ対応・対策は顧客化を増進し、企業イメージと業績を高める

 パワハラから始まり、セクハラそしてマタハラと気が付けば、ケアハラスメント、モラルハラスメント、ジェンダーハラスメント、アルコールハラスメント、リストラハラスメント、そしてテクハラ(テクノロジーハラスメント)、なんとフキハラ(不機嫌ハラスメント。口調や態度で自分が不機嫌な気分であると示し、相手に不快感や威圧感などを与える)なるものまで出る始末。まさにハラハラ地獄の様相を呈している状況だ。

 お客(カスタマー)もスタッフ(顧客接点)も寛容性を失った時代の中で、一部消費者の中ではカスハラセミナーへの参加が増えているとも言われる。カスハラの傍目のマイナス効果に対する対策だろうか、お客も充分に意識し始めている。そうした中で、優れたカスハラ対策、正当で誠意あるカスハラ対応が出来る企業にとっては、顧客化に向けた好機であることは間違いない。

 以前、とある市販雑誌に「落とした財布理論」という考え方を書いたことがある。

ある人が財布を落としてしまった。財布が無いことに気づいて慌て探し回るも見つからず、あれやこれやと考えた末に、落としたのではないかと思われる場所に戻ってみた。すると、その路辺の隅に自分の財布があったのだ。その時の気持ちは実に嬉しい、見つかった時の喜びが大きいものだ。しかし、冷静に考えれば損得的にはゼロだが、その嬉しさは何時までも記憶に残る。同様に、自らのクレーム(苦情)を適切にかつ親切丁寧に処理された時、お客は感動し記憶に残る。それは友人知人に話す、場合によってはUGCとしてネットに上げるかも知れない。最も優れた販促広告とは購買体験者による好意的評価であろう。それは口コミ、ネット口コミ(UGC)として長期かつ大量に拡散する可能性がある。

戦後の新たな商業の勃興期に商業ビジネスを思想化した専門誌『商業界』の主幹であった倉本長治氏の言葉に、「店は客のためにあり、店員とともに栄える」というものがある。お客のためにあることを大前提としつつ、従業員もまた人であり、お互いの立場を尊重し合うことが大切だ。お客との良好な関係を築くためには、クレーム(カスハラ)対応の上手さが鍵を握ることになる。

カスハラを防止し顧客化を促進する「カスハラ研修」

カスハラ対策研修では、お客を敵に回さないようにしつつ、従業員の立場も尊重するバランス感覚が求められ、業種や業態によってお客のクレームに係るニーズが異なるため、それぞれに即したモデルで研修を行う必要がある。グループワークなどを通じて、従業員自身が考え、落とし込んでいくことが重要だ。

カスハラ対策実務研修

カスタマーハラスメントの研修を通じて、従業員に適切な知識と対処方法を提供することで、職場の安全を守り、顧客との優れた関係性を構築することができます。

 「カスタマーハラスメント研修」

  • カスハラとは何か
    顧客による不適切な行動や発言が何を含むかを明確に定義
    具体例の解説
    法的(条例化)の背景
    カスハラとCSの関係
  • 従業員の権利と責任
  • 「お客様は神様ではない」でも「お客様あっての商売(ビジネス)ではある」
  • カスハラが発生した際の正しい初期対応と手順
    傾聴のスキル高める。「上手に聴く」が解決の糸口
    コミュニケーションスキルの強化
    エスカレーションプロセスを理解する
    カスハラ相談窓口(匿名での報告システム)を考える
  • 具体的な予防策とは、他
  • カスタマーハラスメント対策実効化させるグループワーク
  • ケーススタディ

過去にあった具体的なハラスメント事例をもとに、参加者が対応方法を考えるロールプレイによる意見交換を行うことで実効化を図る。

筆者大木ヒロシ

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