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我が国の失われた30年の元凶はどこにあるのか?

マクロ環境分析からみる日本経済と企業の競争力低下

この30年、日本の競争力は下降の一途を辿り、気が付けば最新の世界競争力ランキングでは35位と、かつてJapan as No.1と持て囃された時代から地に落ちたとも言えます。円安やウクライナ侵攻による原材料費の高騰といったマクロ経済環境の悪化を差し引いても、他国に比べ賃金が上昇していないとう現実を見るとき、一体何故我が国の経済は一向に好転しないかを今こそ、性根を据えて顧みることが必要です。

出典:ビジネスインサイダー https://www.businessinsider.jp/post-271462

この点については諸説あります。大きく分けると、下記のような主張です。

  • 日本が構造改革を行わなかったためであったとするもの
  • 人々の「やる気」や「働きがい」が世界的にも低い水準に落ち込んでいるためであり、日本企業の「古い体質」「変われない空気・組織風土」「あきらめ感」が背景にあるとするもの
  • 日本の資本金10億円以上の企業が、本来経済回復に向けて新しいことに挑戦すべきところ、コストカットの方向に進んだこと、及び収益率が高かった海外投資が増大し、96年に31兆円だった対外直接融資残高が、2021年末時点で229兆円にまで増大したにもかかわらず、海外投資の収益の多くが現地で再投資され、国内の賃金上昇や労働生産性の向上に結び付かなかったことにあるとするもの
  • 天下り文化こそが企業間の自由競争を阻み、ベンチャー企業が成長しにくく、企業や人の新陳代謝が進まない日本社会を作っていることが問題であるとするもの
  • 1990年代の資産価格の下落や不良債権処理にもたついたことによる金融仲介機能の低下が原因であるとするもの
  • 今なお日本に残る「ムラ社会」的な意識、「国民の底意地の悪さ」こそが元凶で、ビジネスモデルの大胆な転換を迫られながら、パラダイムシフトを強いられると、「俺は損をするんじゃないか」「俺はこれはやりたくない」等の変化を嫌う感覚こそが問題であり、同調圧力が強く、時に合理性が軽んじられたり、不寛容で自由を抑圧する傾向こそが問題であるとするもの

これらの主張に対し、人的資本経営が最も説得力があると考えるのが、千葉商科大学内田教授の説です。内田教授によれば、この30年のデフレ経済の元凶、労働市場の需給がタイトになっているにも関わらず、賃金が上昇してこなかった最大の理由には、チャールズ・グッドハート&マノジ・プラダンによる『人口大逆転』に見出することができるとしています。すなわち、「「世界の人口構造の変化とグローバル化が経済の長期的なトレンドを決定づける」とし、30年のデフレ経済は、世界に門戸を開いた中国の労働力が世界経済の供給力を格段に増やしたことが決定的な要因だと理論的、実証的に分析されています。日本についても「日本の企業は国内の労働力不足を中国はじめ海外の労働力で補うという合理的選択をした(海外生産を増やした)」とされ、「日本企業は労働力の減少を中国の豊富な労働力の利用で補ってきたために、人口が減っても賃金を挙げる必要がなかった」とするもので、マクロ経済分析の視点では、まさに目から鱗の的確な分析と言え、失われた30年を見事に総括していると人的資本経営は考えます。

人的資本としての女性視点の欠如

では、人的資本経営は失われた30年の元凶をどう考えるか?

それは、ずばり、現状を変えようとしないマインドこそがその元凶であると考えます。マクロ経済分析的には、中国の労働力に依拠したために賃金を上げる必要がなかったことが元凶でしょう。しかし、こうした分析は私達の肌感覚とは少し違うように思います。

これまでのパラダイムを変えようとしない、否、変わりたくないというマインドこそが最大の障害となっていると私たちは考えています。その上で、私達人的資本経営は、さらに本質的な原因が潜んでいると考えています。

そのヒントは、実は、本当に身近なところにあると人的資本経営は考えます。

下の写真をご覧ください。一見何の変哲もないこのシステムキッチンの中に、実はその元凶のヒントが隠されているのです。お分かりになるでしょうか?

実はこのシステムキッチンには決定的に足りないものがあります。

それは、女性視点なのです。実際に女性がエプロンをしてこのシステムキッチンに立つと、エプロンが取っ手に引っかかってしまい、破れてしまうのです。ブランド物の洋服を着ていた日には目も当てられない程、無残な光景が目に浮かぶのではないでしょうか?

もし、如何にして利用する女性が使いやすいキッチンにするか、という女性視点があれば、あるいは、デザインの採否のプロセスに女性が関わっていれば、こうした製品開発に係る非合理性を避けることができるのではないかと考えるのです。

これは製品開発における女性視点欠如の一事例ですが、実は、我が国の製品開発のみならず、組織の至る所で、そして、日常業務の至る所で、こうした女性視点の欠如が見られるのではないかと人的資本経営は考えるのです。

新たなパラダイムによる従来日本からの脱却-女性リーダーこそが日本を変えていく-

我が国が製品開発においても、また、業務を行う上でも女性視点が欠如していることは、データ上も明らかです。1つはジェンダー・ギャップ指数です。驚くべきことに、日本のジェンダー・ギャップ指数は、韓国・中国を下回り、その数値も他の先進国に比し、著しく低い状況です。子細に見ると、実は、「教育」と「健康」は世界トップクラスにもかかわらず、「政治」と「経済」の値が非常に低いことが分かります。

如何に我が国が女性を人的資本として活用してこなかったかを如実に物語る数値です。

失われた30年から脱却するためには、こうしたジェンダー・ギャップに真正面から取り組み、女性の社会進出を促進し、女性を重要な人的資本として活用していくことでダイバーシティを推進し、イノベーションを創発することが求められていると考えるのです。

出典:男女共同参画局ホームページhttps://www.gender.go.jp/international/int_syogaikoku/int_shihyo/index.html

女性管理職になりたくないはホント?管理職になりたがらない原因を分析し、イノベーション創発に向けた課題解決を図る

女性リーダーの養成によるバラダイムの転換が必要と考えます。

下図は、先進国を含む各国の女性管理職の比率を示したものです。日本は2020年度のデータ(他国は2019年のものもあり)ですが、驚くべきは、他国がほぼ軒並み40%以上、フィリピンに至っては50%以上であるのに対し、我が国が13.2%(2023年度の最新データでは、12.7%)に留まっている点です。これは、ドイツ、イタリアの半分にも満たない数値です。

出典:女性活躍に関する基礎データ(内閣府男女共同参画局令和4年7月19日)

では、一体何故、これほどまでに女性管理職の比率が低いのでしょうか。

ここでよく言われるのがM字カーブで、我が国では、女性が結婚・出産を機に仕事を一旦は辞めてしまい、育児が落ち着いた頃に再び上昇するというものです。確かに、子どものために仕事を辞めてしまうというM字カーブはデータ上明らかですが、最近はそのM字カーブも低減の傾向が見られ、背景はそれだけにとどまらないように思います。

女性管理職が少ない理由については、一般的に下記の理由が挙げられています。

  • 女性が女性管理職になりたがらない
  • 結婚・出産後は安定志向になり挑戦したがらない
  • 女性の多くが管理職になるまでに退職する
  • そもそも女性社員比率が低い
  • 出産や育児などのライフステージの変化により就業継続が難しくなる
  • 管理職への昇進を前提としたキャリアパスが描きにくい
  • 育児休業を取得した社員の人事評価が相対的に低くなりやすい
  • 管理職の業務負担が過剰であるとのイメージがある
  • 社会全体として旧来的な性役割(アンコンシャスバイアス)から脱却していない
  • ロールモデルが不在である

総括すると、女性ならではのライフステージ毎に課題があることが分かります。特に女性は家事や育児の負担が大きく、育児休業の取得率が女性81.6%に対し、男性は12.7%に留まっており、また、男性は仕事をして家庭をささえるべきとする男性が48.7%に対し、女性44.9%とアンコンシャスバイアスも厳然と存在しています。

しかし一方では、女性は管理職になりたがらないというイメージに対しては、スリール株式会社が行った調査により、「求められればマネージメント(管理職)を経験してみたいとの回答が66.5%にも達しており、実は、障害が解消されれば管理職を目指そうとする女性はかなりいると推定することができるのです。

むしろ、最大の問題は、管理職になろうとした女性にとって、なりたいロールモデルがいないことにあると人的資本経営は考えます。女性特有のライフステージ毎に生じる様々な課題を解消するための環境を整備すると共に、女性管理職の登用を積極的に推進することが今我が国に求められる最重要課題と考えます。


スリール株式会社コラム「女性管理職が少ない理由は「女性がなりたくないから」は大間違い!本当の理由とは?」https://sourire-heart.com/8307/ 

例えば、「いまこそ、女性の力を解き放つ 男女平等を実現する3つの戦略」(Diamond Harvard Business Review April 2020)において、女性の権限と影響力を拡大するための3つの戦略を提示している。そこでは、①障害を取り除くこと、②昇進ペースを速めること、③外からの圧力を拡大する、が提言されている。
お茶の水女子大学では2015年度に「グローバル女性リーダー育成研究機構」を開設し、グローバル女性リーダーの養成に積極的に取り組んできている。また、女性リーダー育成塾を運営しているhttp://www-w.cf.ocha.ac.jp/leader/kiin/

人的資本経営の中心に女性リーダー(管理職)の養成を-国の強力な施策をエンジンにして-

我が国は、男女共同参画基本計画で、2020年代の可能な限り早期に、指導的地位に占める女性の割合が30%程度になることを目指すとしています。その背景となったのが、2015年8月に施行された女性活躍推進法です。本法は、「すべての女性が輝く社会づくり」を推進し、すべての女性がその生き方に自信と誇りを持ち活躍できる社会づくりを進めるものです。より具体的には、従業員301名以上の企業(300名以下は努力義務)を対象に女性活躍の状況把握と行動計画の策定が求められています。すなわち、

  • 「自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析」
  • 「その課題を解決するのにふさわしい数値目標と取り組みを盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表」
  • 「自社の女性の活躍に関する情報の公表」

これらに加え、「女性が家庭と仕事を両立させ、自分のキャリアを考えられる職場環境を整えること」も求められています。

こうした動きと連動して、「人材版伊藤リポート」等により、非財務情報に関する情報開示の流れの中で、人材を資本と位置付ける、人的資本経営に対する関心が高まり、女性管理職の割合といった人的資本開示が求められ、また、金融審議会「ディスクロージャーワーキング」報告書では、多様性について「男女賃金格差」、「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」等に関する開示方針が提示されることになりました。内閣官房・非財務情報可視化研究会では、人的資本可視化方針が示され、2023年3月から、人的資本の開示情報が義務付けられています。このように、国も、女性リーダー(管理職)を人的資本経営の中心にすべく、様々な政策・施策を通じて強力に推し進めています。

人的資本経営の中心に女性リーダー(管理職)の養成を-女性のキャリア開発と人材育成-

では、女性が目指したいと思える女性リーダー(管理職)のロールモデルを次から次へと輩出するためには何が必要なのでしょうか?
それには、まず、女性特有のライフステージ毎に生ずる障害を取り除くことです。そして、女性が活躍できる環境醸成としては下記が考えられます。

  • 制度整備【AI・DXの活用】
    キャリアを中断することなく働くための、育児休業制度の構築及び運用、テレワーク・在宅ワーク環境やサテライトオフィス環境の整備、ジョブ型人事制度による業務範囲と責任の明確化、フレックスタイムやシフト勤務等の導入による時短の促進、休暇制度の柔軟な運用等、DX・AIを活用した働きやすさの追求
  • 女性管理職に対するイメージの向上
    中間管理職の業務負担増大イメージを払拭して、女性社員が管理職になりたいと思えるよう、権限移譲や待遇の改善
  • 社内女性管理職の積極的登用(目標数値の設定)によるロールモデルの輩出
    数値目標を設定して女性管理職を積極的に登用することにより、生き生きと仕事に取り組む上司への憧憬の念を抱かせ、「管理職になりたい」「キャリアを積みたい」と思って貰えるような女性管理職を輩出し、社内のみならず、日本にイノベーションを起こす女性リーダーとしてメディアで情報発信
  • 人事評価基準の明確化
    「何が評価されるのか」「どう評価されるのか」、「どのように処遇に反映されるのか」に関する評価基準の透明性の確保
  • 多様性に対する意識の変化
    女性の登用のみならず、VUCAの時代にあって、ダイバーシティ【多様性への対応】が企業の競争力の源泉であるとの意識の変化・浸透
  • 女性のキャリア開発と人材育成
    社内で女性管理職を養成するためのキャリア開発研修や管理職登用研修等を通じた人材育成

出産や育児、家事によって女性に負担がかかり、出社が難しい、オフィスでのワークが難しいといった場合にも、在宅やオンラインワークを導入し、また、時短勤務、フレックスタイム、シフト勤務といった制度を重畳的に活用し、できるだけ自宅に居ながらにして、また家事をしながらも、業務ができる制度を整えつつ、評価制度についても、ジョブ型を考慮した、成果で評価するシステムへと変更することで、女性の負担を減らすことができます。

その上で、人的資本経営は、女性が管理職になるための意識改革が必要と考えます。女性ならではのライフステージを十分理解し、将来のキャリアデザインを描き、中長期のキャリアプランを作成することでなりたい自分になることをサポートするためのキャリ開発研修とスキルファーストの考え方に基づく、女性リーダーに求められるスキルを明確にし、これらスキルに適った人材育成制度を構築するための登用(アセスメント)研修、そして、女性を登用する側(女性の上司となるべき人材)の意識改革と女性リーダーのキャリアをサポートできる環境醸成を実現できる組織開発をサポートすることで、我が国のイノベーションを創発したいと考えます。

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