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企業はどう対応するべき?人的資本の開示について

2022年6月、内閣官房が人的資本可視化の指針案を公開し、話題となりました。近年では、投資家が企業の将来性を見極める際にも重視されている「人的資本」。企業が自社の人的資本を開示する動きが日本でも活発になっています。今回は人的資本の定義や、企業が人的資本の開示を行うために知っておきたい基礎知識を解説します。

人的資本とは

人的資本とは、人材を「資本」と捉えた言葉で、英語では「Human capital」と表されます。人材は資本であるため、個々の知識や能力、技術などの向上に投資することで企業の生産性も上がるという考え方に基づいています。

これまでは、人材は資本ではなく資源であるという考え方が一般的であり「人的資源(Human resource)」とみなされていました。ところが近年は、産業構造の変化や企業に社会性や持続性が求められるようになった背景から、人材を資源ではなく資本ととらえる考え方が浸透しつつあります。

人材開発に投資することで企業の成長をはかる「人的資本経営」への転向は、世界的なビジネスの流れとして注目を集めているのです。

企業の資本には2種類ある

企業の資本には「有形資本」「無形資本」の2種類があります。有形資本は社屋や設備、金銭といった目に見える形の資本を指します。一方、無形資本はスキルやノウハウ、特許、蓄積されてきたデータのような目に見えない形の資本です。人的資本は、後者の無形資本に含まれます。

企業の資本

  • 有形資本・・・財務資本/製造資本
  • 無形資本・・・知的資本/社会・関係資本/人的資本/自然資本

ITの発達によって、世界のビジネスの中心が「有形物の大量生産」から「目に見えないシステムやサービスの開発・提供」へと大きくシフトしました。目に見えるモノの生産では人材は「資源」として機能していました。ところが、知識やアイディアをベースとする現在のビジネス潮流の中では、一人ひとりの能力を伸ばすことが企業の成長を左右します。

こういった背景から、欧米では、日本に先駆けて人的資本経営に関する取り組みが活発化しはじめました。

ISO30414の策定

2018年12月に国際標準化機構(ISO)が発表した「ISO30414」では、人的資本の開示についてのガイドラインが策定されています。人的資本に関する指標を11のカテゴリーに分類し、どのような要素の可視化が必要なのかを明確にしました。

1.コンプライアンスと倫理

苦情や懲戒処分の件数、種類やコンプライアンス研修を受講した従業員の割合など

2.コスト

人件費、採用や離職にともなうコストなど

3.ダイバーシティ

従業員の年齢・性別・障がいなどの多様性、経営陣のダイバーシティなど

4.リーダーシップ

経営陣に対する信頼度、管理職一人に対する部下の人数など

5.組織文化

ワークエンゲージメント、従業員の満足度やコミットメント、定着率など

6.健康・安全

労災の件数や発生率、死亡者数や死亡率、損失時間など

7.生産性

従業員一人あたりのEBIT(利息・税金控除前の収益)、売上高、利益や人的資本のROI(費用対効果)など

8.採用・異動・離職

候補者数、採用にかかる平均期間、内部異動率、離職率、離職理由など

9.スキルと能力

人材育成・開発費用、研修の参加率、公式の研修時間の平均、労働力能力率など

10.後継者の育成

内部継承率、後継者候補の準備率や準備の進捗など

11.労働力

総従業員数、FTE(フルタイム当量)、臨時労働力(業務委託や派遣)、欠勤など

(参考:TUNAG「ISO30414とは? 人的資本の情報開示が求められる4つの背景」

これらを数値化することで、企業の人的資本の状況が可視化されます。投資家が企業の動向をはかる指標としてはもちろん、自社の人材マネジメントの課題発見にも役立ちます。

ISO30414で示された人的資産の指標は、必ず開示しなければならないものではありません。しかし産業構造の変化に伴い、人的資本をはじめとする無形資本が企業の市場価値を大きく左右するようになりました。人的資本への投資を明確にすることは、企業価値の向上にもつながります。

日本国内では、2020年9月に経済産業省によって「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書」通称「人材版伊藤レポート」が発表されました。これは、一橋大学の特任教授・伊藤邦雄氏を中心に開催された研究会の報告書であり、企業の人的資本開示の重要性や、企業価値の向上と人的資本のつながりなどが言及されています。

(参考:経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書~人材版伊藤レポート~」

また、2021年6月には東京証券取引所が「コーポレートガバナンス・コード」の改訂を発表。この改訂で、上場企業の各社に人的資源情報の開示が求められました。

(参考:日本総研「人的資本に関する情報開示の動向(前編)―2021年末時点のTOPIX100企業のコーポレート・ガバナンスに関する報告書をもとに―」

人的資本への投資としての「研修」

人的資本の開示に向けてできる対策は多岐に渡りますが、人材開発に力を入れるのも一つの方法です。ISO30414で示された「スキルと能力」では、研修に関わる指標として下記が策定されていました。

  • 人材開発・研修の費用
  • 研修の参加率
  • 社内の公式研修における従業員1人あたりの受講時間
  • カテゴリー別の研修受講率

人的資本への投資の一環として研修を実施するにあたり、業務内容や社会情勢をふまえた適切な研修の選定や、参加の促進など、取り組まなければならないことはたくさんあります。人事担当者だけですべてを管理するには多大な労力が必要です。

セミナー&研修ネットでは、人的資本の開示に向けた研修計画の立案や、企業の状況に合わせた研修内容のご提案を行っています。営業のスキルアップやコンプライアンス、SNSの活用など、多岐にわたるカリキュラムを用意しているので、複数分野の知識や技術をもった人材育成が可能です。

オンラインでの実施や動画研修にも対応しておりテレワーク中にも受講が可能なので、参加率に課題がある企業もぜひ検討してみてください。

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