カスタマーハラスメント(カスハラ)への対策が、法律に基づいて事業主に求められるようになりました。厚生労働省の労働局の案内では、カスハラの防止措置を事業主に求める改正法(令和7年法律第63号)は、2026年10月1日に施行されたとされています。
「方針は作ったほうがよいらしい」「研修もしたほうがよいのでは」と考えつつ、何から手を付ければよいか迷っている人事・総務・店舗の責任者の方も多いのではないでしょうか。研修は一律に求められているわけではありませんが、方針や対処の内容を従業員に伝えることは求められており、その方法の例として研修が挙げられています。
この記事では、厚生労働省が示している指針の項目に沿って、自社の対策を点検するためのチェックリストを整理します。カスハラの定義や対応の個別の疑問は「カスタマーハラスメント対策FAQ」で、研修会社の選び方は「カスハラ研修の選び方」で紹介しています。
なお、法令の細かな解釈や自社の就業規則の改定については、厚生労働省の資料のほか、社会保険労務士や弁護士などの専門家にご確認ください。記事の末尾では、当サイトの運営会社が提供している研修を紹介しています。
記事の要約(このブログから学べること)
・カスハラ対策は、一部の業種だけでなく、労働者を雇う事業主に広く関わるテーマになった ・指針は「方針と対処の内容を伝える」「相談体制を整える」「起きたあとに適切に対応する」「特に悪質な言動への対処方針を決める」などの措置を求めている ・まずは自社の現状をチェックリストで点検し、足りないところから順に手を打つのが現実的
何が事業主の義務になったのか
カスハラとは何か
厚生労働省の指針では、職場におけるカスタマーハラスメントを、次の3つの要素をすべて満たすものとしています。
- 顧客等の言動であること
- 労働者が従事する業務の性質などに照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
- それによって、労働者の就業環境が害されること
ここでいう「顧客等」には、商品を買うお客様だけでなく、取引先の担当者や施設の利用者とその家族なども含まれます。また、店舗での対面のやりとりだけでなく、電話やSNSなどインターネット上の言動も対象になるとされています。
正当な苦情はカスハラではない
指針は、お客様からの苦情のすべてがカスハラに当たるわけではない、とはっきり述べています。社会通念上許容される範囲で行われた申し入れは、いわば正当な申し入れであり、カスハラには当たりません。
対策を進めるときは、「お客様の声を受け止めること」と「行き過ぎた言動から従業員を守ること」を分けて考えることが大切です。この考え方を社内で共有しておかないと、現場が正当な苦情まで拒んでしまったり、反対に行き過ぎた言動を我慢し続けたりすることになりかねません。
対象になる労働者
指針では、正社員だけでなく、パートタイム労働者や契約社員なども含め、事業主が雇用するすべての労働者が対象とされています。派遣労働者については、派遣先も対策を講じる必要があるとされています。
施行後に見直す社内点検チェックリスト
指針が事業主に求めている措置の項目に沿って、点検のポイントを整理しました。すべてを一度に完璧にする必要はありません。まずは「できている」「一部できている」「まだ」の3段階で、自社の現状を確かめてみてください。
なお、指針は、対策を講じる際に、消費者の権利や、障害のある方への不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供にも留意し、事案に応じて適切に対応する必要があるとしています。
方針と対処の内容を決めて伝えているか
- カスハラには毅然とした態度で対応し、従業員を守るという方針を、文書などで明らかにしているか
- その方針を、管理職を含む従業員に伝えているか(社内報、社内ホームページ、トップメッセージなど)
- どのような言動がカスハラに当たり得るかと、あらかじめ決めた対処の内容を、従業員に伝えているか
指針は、あらかじめ決めておく対処の内容の例として、すぐに管理職などへ報告して指示を仰ぐこと、できるだけ従業員を一人で対応させないことを挙げています。
ほかにも、十分に説明しても繰り返し要求が続く場合には一定の時間で対応を終えること、本社・本部へ情報を共有することなどが例に挙がっています。自社の業種や現場に合わせて、具体的に決めておきましょう。
相談できる窓口があるか
- 従業員がカスハラを受けたときの相談窓口を、あらかじめ決めているか(ほかのハラスメントの窓口と一体でもよいとされています)
- 相談窓口があることを、パートや派遣のスタッフも含めて知らせているか
- カスハラに当たるか微妙な場合も含めて、広く相談を受け、窓口の担当者が内容に応じて対応できるようになっているか
起きたあとの対応を決めているか
- 事実関係を、すばやく正確に確認する手順を決めているか
- 被害を受けた従業員への配慮(管理職が代わって対応する、担当者を代える・複数で対応する、心身の不調の相談に応じるなど)ができるか
- 方針を改めて伝えるとともに、原因や背景となった商品・サービス・接客の問題があれば見直す流れがあるか
特に悪質な言動への対処方針があるか
- 過度な要求を繰り返すなど、特に悪質と考えられる言動への対処の方針を、あらかじめ決めているか
- その方針を、管理職を含む従業員に伝え、実際に対処できる体制(関係部門の連携など)を整えているか
指針は、特に悪質なものへの対処の例として、犯罪に当たり得る言動の警察への通報、警告文を出すこと、店舗や施設への出入りを禁止することなどを挙げています。どこまで行うかは業種や業態によって異なるため、自社の状況に合わせて決めることが大切です。
相談した人を守る仕組みがあるか
- 相談者のプライバシーを守るための扱いを決め、そのことを従業員に伝えているか
- 相談したことを理由に、不利益な扱いをしないことを伝えているか
研修を計画するときの考え方
指針の中で、研修は次のような形で触れられています。
- 方針や対処の内容を従業員に伝える方法の例として、研修や講習の実施
- 相談窓口の担当者に対する、相談を受けたときの対応についての研修
- 事業主が行うことが望ましい取組として、従業員が自社の商品やサービスをよく理解し、顧客等への対応力を高めるための取組
研修を計画するときは、立場ごとに目的を分けると、内容を決めやすくなります。
| 対象 | 研修のねらいの例 |
|---|---|
| お客様と接する従業員 | 自社でカスハラに当たり得る言動の例、会社が決めた対処の内容、迷ったら自分で判断せずに報告すること |
| 管理職・店舗責任者 | 報告を受けたときの対応、代わって対応する判断、部下へのケア |
| 相談窓口の担当者 | 相談の受け方、事実確認の進め方、プライバシーへの配慮 |
方針やマニュアルを作っても、現場で使われなければ意味がありません。研修でロールプレイなどを通して実際に練習しておくと、いざというときに落ち着いて動きやすくなります。
新入社員に何をどう伝えるかは、「新入社員にもカスハラ対応の基本を」で詳しく紹介しています。
よくある質問
Q. 小さな会社でも対策が必要ですか
指針は、労働者を雇用する事業主が講ずべき措置を示したものです。規模による扱いの違いの有無も含め、厚生労働省の資料や専門家にご確認ください。取り組みを始める際は、まず方針を決めて伝えること、相談先を決めておくことから始めるのが現実的です。
Q. 取引先からの言動も対象になりますか
指針では、「顧客等」に取引先の担当者や、契約の交渉を行う相手方の担当者なども含まれるとされています。対象を店舗のお客様だけに限らず、取引先とのやりとりも含めて点検しておくとよいでしょう。
Q. 研修は行わなければならないのですか
指針は、方針や対処の内容を従業員に伝える方法の例として、研修や講習を挙げています。社内報やマニュアルなど、ほかの伝え方も例に挙がっているため、具体的な方法は自社に合わせて選び、必要に応じて専門家にご確認ください。
まとめ
カスハラ対策の義務化は、従業員を守る仕組みを会社として整えるきっかけです。迷ったときは、指針の項目の順に沿って、次の3つから取りかかるのがひとつの方法です(法的な優先順位を示すものではありません)。
- カスハラへの方針と対処の内容を文書にして、管理職を含む従業員に伝える
- 相談窓口を決めて、パートや派遣のスタッフも含めて知らせる
- 報告を受けたときの確認と引き継ぎの流れを決める
そのうえで、特に悪質な言動への対処方針や、相談者を守る仕組みも整えていきましょう。現場で使える形にするために、立場ごとの研修を組み合わせることも検討してみてください。
上の表の対象に合わせて、当サイトの運営会社では次のような研修を提供しています。お客様と接する従業員と管理職向けにはカスハラ対策研修、マニュアルづくりから取り組む場合は実践型ハラスメント研修、相談窓口の担当者向けにはハラスメント全般の相談対応を学ぶ相談窓口研修があります。
出典
- 厚生労働省 山口労働局「ハラスメント対策」(改正法の施行日・指針の告示についての案内)
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)