仕入れや人件費が上がり、取引先に値上げをお願いしなければならない。けれど営業担当者に任せても、なかなか価格転嫁の話がまとまらない。そこで「交渉力を鍛える研修を」と相談を受ける研修担当者の方もいらっしゃると思います。
当サイトの運営会社ジャイロ総合コンサルティングを立ち上げた大木ヒロシ講師は、ブログで、価格交渉がうまくいかない原因は交渉テクニックの不足ではなく、「値段そのものへの向き合い方の甘さ」にある、と述べています。この記事は、その指摘を研修担当者の目で整理し、価格交渉の研修で何を先に扱うとよいかを考えるものです。
なお、記事の末尾では、当サイトの運営会社が提供している研修を紹介しています。
記事の要約
大木講師の見方
・値上げの交渉がまとまらない根には、交渉の技術の不足ではなく、値段そのものへの向き合い方の甘さがある
編集部の整理
・営業担当者が根拠の数字を用意できるかどうかは、本人の力量だけでなく、社内の準備の問題でもある
・研修では、交渉のロールプレイの前に、社内で使える数字をそろえ、自社の価値を言葉にする時間を取ると、話す材料を用意しやすくなる
大木ヒロシ講師が伝えていること
大木ヒロシ講師は、「値上げをお願いしても、なかなか通らない」という相談について、ブログで次のように述べています。
この悩みの根にあるのは交渉テクニックの不足ではなく、値段そのものへの向き合い方の甘さだ。
ブログで述べられている内容のうち、研修に関わりの深いものを整理すると、次のとおりです。
値段の決め方を見直す
原価に利ざやを足すだけで値段を決める考え方を改めるには、自社がどんな付加価値を持っているのかを、社員みんなで改めて考えることが必要だ、としています。あわせて、値段はそれ自体が商品の特性の一つになりうる、という見方も示しています。
売上より粗利を見る
売上から売上原価を引いた「粗利」という基本の構造を見失っている経営者が多い、と指摘しています。ブログでは、値上げで売上が減っても、粗利率が十分に上がれば粗利の額は増えるという計算例を挙げています。また、別の箇所では「売れることと儲かることは別物」と述べ、売上だけを追う考え方に注意を促しています。
取引先との関係を言葉から変える
発注する側にとっても、適正な価格転嫁は相手を助けるためではなく、自社の仕入れや供給の流れを保つための投資だ、という見方を示しています。社内の呼び方を「下請け業者」から「パートナー企業」に変えることにも、意味があると述べています。
値上げは数字で伝え、記録に残す
上がった材料費・人件費・燃料費を具体的な数字で示すこと、口頭だけで終わらせずメールで送って記録に残すことを挙げています。感情ではなく数字で話すことが大切だ、という考えです。
研修担当者にとっての意味
ここからは、大木講師の考え方を受けて、研修を企画する立場から編集部が整理したものです。
話し方の練習だけでは足りない場合がある
価格交渉の研修というと、切り出し方や断られたときの返し方を練習する内容が思い浮かびます。もちろん、それも役に立ちます。
ただ、営業担当者の手元に「何がどれだけ上がったのか」という材料がなければ、どれだけ話し方を工夫しても「お願い」以上のものにはなりにくいでしょう。大木講師が、数字を用意して伝えることを挙げている点は、交渉の前の準備に目を向けるきっかけになります。
数字を出せないのは、本人だけの問題ではない
営業担当者がコストの数字を示せないとき、その原因は本人の努力不足とは限りません。原価や粗利の情報が営業部門に共有されていない、取引先にどこまで示してよいかが決まっていない、といった社内の事情もありえます。
値段を決める人が受講しないと、現場で使えない
値段や値上げの幅を決めるのは、多くの場合、営業担当者本人ではなく経営層や営業の責任者です。営業担当者だけが研修で学んでも、社内の方針が決まっていなければ、交渉の場で使える材料にはなりません。
買う側の社員にとっても参考になる
取引先との関係についての大木講師の考え方は、購買や発注を担当する社員にとっても参考になると編集部は考えます。自社は値上げをお願いする立場であると同時に、仕入れ先からお願いされる立場でもあるからです。
研修で扱うなら
以下は、編集部が考えた進め方の例です。価格交渉の研修を企画するとき、研修担当者が「研修の前・当日・後」にできることを整理します。
研修の前にそろえておくこと
- 営業が使ってよい数字の範囲:経理や経営層と相談し、取引先に示してよいコストの情報を決めておきます
- 配る資料:仕入れ価格や人件費の推移など、受講者が書き出しに使える資料を、購買や経理の協力を得て用意します
- 受講者の顔ぶれ:営業担当者に加えて、値段を決める立場の人(経営層・営業の責任者)、見積もりを作る事務担当者、購買担当者にも声をかけます
当日に扱う内容の例
コスト上昇分の書き出し 担当している商品や取引先を一つ選び、配った資料をもとに、何がどれだけ上がったのかを書き出します。分からない項目が出てきたら、それ自体が「社内で確認すべきこと」の発見になります。
粗利の基本 売上・原価・粗利の関係を、仮の数字で計算してみます。値上げで売上が減った場合に粗利の額がどう変わるかを自分で確かめると、「値上げは売上が減るから避けたい」という思い込みを見直すきっかけになります。会計の基本についてはなぜビジネスに会計が必要なのか?もあわせてご覧ください。
自社の価値を言葉にする 「取引先は、なぜ他社ではなく自社と取引しているのか」を少人数で話し合います。納期の安定、品質、相談のしやすさなど、現場では当たり前と思っていることの中に、取引先が評価している点が見つかることがあります。出てきた答えを、交渉で使える言葉に整えます。
ロールプレイ ここまでで用意した数字と言葉を使って、交渉の場面を練習します。交渉の内容をメールなどで記録に残す流れも、練習の中に組み込みます。
研修の後に確かめること
研修の後、実際の商談で数字を示せたか、記録を残せたかを、上司との面談などで確認します。数字が足りなかった場合は、社内で何を追加で共有すべきかが見えてきます。
この進め方が合わない場合
値上げの方針そのものが社内で決まっていない段階では、研修より先に、経営層の間で方針を固めるほうがよい場合もあります。
よくある質問
Q. 交渉のロールプレイは不要ということですか?
不要ではありません。準備した数字や言葉を、実際の場面で使えるようにするためには、ロールプレイが役立ちます。この記事でお伝えしたいのは、その前に話す材料をそろえる時間を取る、ということです。
Q. 原価などの数字を、研修で営業担当者に見せてよいのでしょうか?
どこまで共有するかは会社によって異なります。研修の前に、経理や経営層と「営業が使ってよい数字」の範囲を決めておくと安心です。研修では仮の数字を使って考え方だけを学ぶ方法もあります。
Q. 値上げに関する法律についても研修で扱うべきですか?
下請け取引や価格転嫁に関するルールは、改正されることがあります。扱う場合は、国の公的な情報で最新の内容を確認し、自社の顧問の専門家などに確かめてもらうことをおすすめします。
まとめ
大木講師のブログの内容と、編集部の整理をあわせてまとめます。
値上げの交渉がうまくいかないとき、話し方の練習だけで解決しようとすると、遠回りになることがあります。
- 値段の決め方と、自社が取引先にとってどんな価値を持っているかを考える
- 売上だけでなく粗利を見る
- 何がどれだけ上がったのかを数字で示し、交渉の内容を記録に残す
- 値段を決める立場の人も一緒に学ぶ
こうした準備を研修に組み込むと、交渉の場で話す材料をそろえやすくなると考えられます。
当サイトの運営会社では、交渉の計画からロールプレイまでを扱う研修などを提供しています(担当講師は研修ごとに異なります)。自社の状況に合わせた内容をご相談いただけます。
出典
本記事は、当サイトを運営するジャイロ総合コンサルティング株式会社の大木ヒロシ講師によるブログ記事をもとに、セミナー&研修ネット編集部が企業の研修担当者向けに再構成したものです。
補足
- 「記事の要約」のうち「編集部の整理」と、「研修担当者にとっての意味」以降は、編集部の整理であり、大木ヒロシ講師の見解そのものではありません。
- 記事中で紹介している研修は、当サイトの運営会社が提供しているものです。