コンプライアンス経営の実践 (上級管理職の役割と使命とコンプライアンス)


上級管理職の役割と使命とコンプライアンス

経営トップが自らの信念や企業理念に基づいたコンプライアンス経営に関するメッセージを社内外に発信し、それが企業風土として根付き、また世間から評価されるためには、上級管理職(ここでは執行役員、部長、室長などのレベルをいう)の役割は重要です。一方で、上級管理職がコンプライアンス経営の重要性や自らの役割と使命に気がつかない場合、企業は危険な方向へ進んでいく可能性もあります。

上級管理職の役割と使命

上述した通り上級管理職の役割と使命は「組織の目的や目標を達成するために、与えられた一定の役割目標を達成する」ことです。日々の業務運営の中では、部署によっては温度差があるものの、この「役割目標」のうち、「業績目標」の達成に焦点が集まる傾向が多いようです。

そして、この「業績目標」を達成すれば、会社から高い評価を得られることが一般的ですが、一方で、コンプライアンスを遵守したからといって評価されることはほとんどないことも実情です。これはコンプライアンスを守ることは“当たり前”のことと考えられているためです。

しかし、実際のビジネスでは「食うか、食われるか」を余儀なくされている部門もあります。例えば、厳しい環境の中で、ある部門に新任部長が配属になったとします。そして前任者と引き継ぎをしてみると、色々な違法行為やグレーゾーン行為が以前から恒常的に繰り返し行われていることが分かりました。前任者からは「君のやり方でやってもいいが、業績の維持は困難になるよ」を脅かされました。こうした厳しい状況の中で、新任部長は誰に相談することもできず困っています。さて、この新任部長はどのような行動をとるのでしょうか?

コンプライアンスという言葉が一般的になり、一度も聞いたことがないという組織人は少なくとも部長クラスにはいないと思います。そして守らなければならないものとも思っていますが、上述のような業績目標の達成とコンプライアンスとの狭間で揺れる上級管理職も多いことと思います。

例えば、最近の事件ではベスト電器の元販売促進部長は、なぜ不正な方法のDM広告を選択したのでしょうか?

やはり、業績目標の達成に役割と使命の比重を置きすぎたのではないでしょうか。それとも、彼の役割と使命には、最初からコンプライアンスは入っていなかったのでしょうか。同社は、「ダイレクトメール問題に関する特別調査委員会」を設置し、事件が起きた経緯を社内調査し、再発防止策をまとめるとしていますので、その発表が待たれるところです。

また、以前からよく起こっている問題では、公共事業等を巡る談合事件や反社会勢力等への利益供与事件です。これらの事件でなぜ会社の幹部は違法行為を行ったのでしょうか?これも業績目標等の達成に役割の比重を置きすぎた。あるいは彼らの役割と使命には、最初からコンプライアンスは入っていなかったのでしょうか。

このように実際のビジネスの現場では、業績目標の達成とコンプライアンスとの狭間で揺れる上級管理職も多いのです。

権限・権力の中で不正の誘惑

さて、上級管理職で忘れていけないのは、権限や権力の拡大による暴走や横暴です。これらは、第三者によるチェック機能が効いていないことが多く、放っておくとエスカレートしていくことが一般的です。例えば、取引先に対する過大な接待行為(予算外)、仕入れ先や下請け企業への過大な接待や贈答品等の要求、あるいは優越的な地位の乱用(独占禁止法違反)、部下に対するパワハラ、セクハラ、あるいは自部門内での違法行為のもみ消しなどの行為が考えられます。そしてこれらは放っておくと、エスカレートし、とんでもないことに発展する可能性を内在しています。

また、よくあるのが長期の間、同一の部署を同一の管理職が支配しているために、不正行為が表に出ないケースです。例えば、仮払金の使い込みや、架空の領収書による金銭横領、部門内での粉飾経理などの行為が考えられます。これらも部署によっては、会社の存立に関わるような大きなリスクを生じさせる可能性もあります。

上級管理職のあるべき行動とは

上述した上級管理職の役割と使命である「組織の目的や目標を達成するために、与えられた一定の役割目標を達成する」の「役割目標」は、当然、企業の存続や長期的な成長を支えるためのものです。日々の活動の中で焦点が「業績目標」に集中しようが、コンプライアンスが評価されまいと、これに変わりはありません。経営者を除いた最高司令官である上級管理職がこのことを忘れてはいけません。

従って、上級管理職は常に、社内慣行、業界ルールに縛られずに広い視野で会社内外を見渡すことが必要です。また、短期・一時の利益より長期的な利益を重視し、長期的な視点とバランス感覚を持つことも必要です。さらに、時には社長や役員と勇気を持って談判し、説得することもためらわずに行うべきでしょう。どんな困難があろうとも、あきらめずに粘り強く立ち向かっていく気概が必要です。なぜなら、自分の会社であり、みんなの会社なのですから。上級管理職は、経営者・他部門・他社・部下などそれぞれの関係の中で、これらの視点・考え方・感覚・気概を持って行動し、コンプライアンス経営を企業風土として根付かせなければなりません。

考えることの重要性

また、コンプライアンスは単に法律や規則で「やってはいけないこと」と書かれていることを守ればよいというものではありません。実際の現場では、法律のグレーゾーンや、違法でないが社会正義からみた場合にはおかしい行為など、簡単に判断がつかない場合も多いことも事実です。

その時に必要なことは「考える」ことです。一消費者として、一労働者として、一地域住民として、立場を変えて考えてみることが大切です。「以前からこうだった」というワンパターン・前例踏襲主義でやっていてはいけません。世の中は常に変化しています。ライブ感覚を持ち、その時代にふさわしいコンプライアンス経営を考えましょう。それが上級管理職の役割と使命でもあります。

コラム「コンプライアンス経営の実践(経営トップの責任)」

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