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コンプライアンス経営の実践 (経営トップの責任)

経営トップの責任

コンプライアンス経営を実践するうえで最も重要なことは、言うまでもなく経営トップの姿勢です。会社の不祥事もさまざまありますが、経営トップがその違法行為等(倫理に反する行為も含む)に関わった、あるいは指示(黙示の指示を含む)を出した場合ほど、会社に与える負のインパクトが大きいのは過去の事件からも周知の事実です。倒産、廃業、行政処分、経営者交代など、単なる関係者の進退問題だけでは済まされず、株主、従業員、取引先など会社を取り巻くステークホルダーに甚大な影響を与えることになります。このように会社階層の中で、違法行為等の実施主体の階層が上にあがれば上がるほど、問題が表面化した時の負の影響は大きくなるのです。

勿論、過去に違法行為等を起こした経営者も、すべて私利私欲で行ったわけではないでしょう。

例えば、売上・利益を確保するために廃棄処分にすべき商品の賞味期限を改ざんするなど、“会社の存続”を守るという思いから、最初はやむなく行ったのかもしれません。しかし、このような行為は麻薬みたいなもので一度手を染めると、今度は中々抜け出すことができず、エスカレートしていくのが一般的です。

悪質なのは、身の保身や自らの利益獲得のために、違法行為に手を染める場合です。例えば、取締役の地位の保身(株主に対して)、部長職の地位の保身(経営者に対して)、業務上の地位を利用しての収賄行為や金員横領などです。これらの行為の場合は、エスカレートや隠蔽のための偽装工作などが重なり、会社にとって最も危険な行為となります。

まずは経営者の認識

前掲したとおりコンプライアンス経営は、21世紀の経営を行う上での重要なキーワードです。まずは、その大切さを、経営者が理解することが必要です。

日本ではまだまだ大きく広がっていませんが、社会的責任投資(SRI:Social Responsible Investment)という投資手法があります。これは、企業を利益などの財務的な側面のみではなく、環境や社会への貢献といった社会的責任(CSR)の視点からも評価・選別し、その責任を果たしている企業への投資を積極的に行い、そうでない企業への投資を控えることにより、企業の社会的責任の遂行を促す投資方法のことをいいます。

それらに積極的に取り組む企業は、不祥事によって企業価値が毀損するリスクが少ないし、それらの活動を通じて消費者や取引先からの支持も得やすくなります。そのため、長期的にみれば投資家に安定的な利益をもたらすという考え方です。

ある大手金融機関系会社の調査によると、日本国内では5,000億円程度(2007年7月)ですが、世界全体では400兆円以上のSRI資産が運用されているという試算が出ています。

このように、コンプライアンスを含むCSRに関する企業の取り組みに対して、世界の投資家も重要な項目として位置づけ初めています。また、これはコンプライアンス経営が長期で見れば企業価値を高めるという考え方を裏付ける有力な事実、データの一つです。このことを経営者はまず認識するべきです。

経営者の決意とメッセージで、コンプライアンス経営を実現

2006年の会社法施行や2007年の金融商品取引法の改正を受け、法令遵守(コンプライアンス)体制や内部統制システムの構築とその運用が一定の企業に義務付けられたこともあり、上場企業を中心として企業ではコンプライアンスの体制整備(コンプライアンス委員会の設置、コンプライアンスマニュアルの制定など)が進められています。

しかし、このようなハード面のみの整備(仏作って魂入れず)では、コンプライアンス経営を実現することはできません。実効性を高めるために大切なことは、むしろソフト面です。

そして、ソフト面で最も重要なことは、経営トップのコンプライアンス経営を貫くという決意と、社内外に対するメッセージの発信です。

まず、経営者は企業理念や社会規範など経営判断をする基準を明確にするとともに、そこからブレない判断を常に心がける必要があります。もう一つ大切なことは、いつも自分自身を客観視できるもう一人の自分を持つことです。

決意が固まったら、それをメッセージとして社内外に発信します。ここで大切なことは、形式的にならないことです。従業員は、長年企業に勤めていると、経営者のメッセージが本気なのか、形式なのか、社交辞令なのか、その機微を鋭く感じ取ります。様々な機会やツールを利用して、できる限り生の声で伝えるとか、事あるごとに触れるなど、継続的に何度も発信し、その本気度を伝えます。そのような地道な取り組みがコンプライアンス重視の企業風土の醸成につながり、従業員や他のステークホルダーを導き、巻き込んでいく第一歩と考えます。

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